シマエナガをディスっていた私がシマエナガに転生してしまったんだが
青樹空良
シマエナガをディスっていた私がシマエナガに転生してしまったんだが
「うう、今日も動画の再生回数、全然増えてない……」
私はスマホ片手に歩きながらため息をついていた。
自分のダンス動画や歌ってみたなんかを上げているのだが、これがなかなか再生数が伸びない。
そもそも、アイドルになりたくてオーディションを受けてみたりもしていたのだが、それも落ちまくった。それで、動画で人気になって注目されればいいんじゃないかとやってみたのだが、全く芽が出ない状態だ。
「はぁあああ……」
ため息が出てしまう。
そんな私の目の前の人を歩いている人が、リュックにシマエナガのぬいぐるみキーホルダーを付けているのが見えた。
なんか、ムカついた。
鳥はただそこにいて何もしていないのに、可愛くなる努力すらしていないのに人気なんて許せない。
しかも、写真集が出ているのもこの前本屋の前を通ったときに見た。
鳥のくせに私より人気なんて許せない。
「あっ」
むしゃくしゃしていたら、私はいつの間にか赤信号で横断歩道を渡っていた。
そして、ありがちだが私を避けきれなかった車に轢かれて、死んだ。
◇ ◇ ◇
目を開けたとき、ちょっと違和感があった。なんで私、木の上にいるんだろう。
しかも、身体がめちゃくちゃ軽い。今にも飛びそうだ。
私は自分の身体がどうなっているか確認しようと、くるりと下を向く。
白い。
別に白い服を着ているわけでもない。
これは……、
「羽だ!」
思わず叫んでしまったが、口から出たのは甲高い鳴き声だった。まるで鳥みたいな。
と、いうことは、ともう一度自分の身体を見てみる。
もふもふした、白い羽毛。
手を広げてみようとすると、広がるのは手ではなく翼だった。
「これは、もしや、鳥に転生……」
呟きもなんだかチュルチュルと聞こえるような鳴き声にしかならない。
「どうすればいいの、これ」
とりあえず、羽ばたいてみる。
「わっ! 飛んだ!」
私は空を飛んでいた。
それにしても、私は一体どんな鳥になってしまったんだろう。
「あっ! 見て! めっちゃ可愛い!」
飛んでいるだけで、地上を歩いている人間が私を指さしてキャッキャしている。どうやら、ここはどこかの公園だったらしい。
それにしても私、そんなに可愛い? のか?
ちょうどいいところに鏡みたいに反射するガラス張りのビルが見えた。あれに私の姿を映せば、どんな姿をしているかわかるはずだ。
ドキドキしながら、私はガラスをのぞき込む。
「こ、これは!」
思わず私は叫ぶ。
「シマエナガだーーーーーー!」
私がただいるだけで可愛いとか言われるのがずるいと思っていた、あのシマエナガだ。ただ存在するだけでチヤホヤされる憎き存在、シマエナガだ。
そのシマエナガに私は、なっていた。
◇ ◇ ◇
そして……、
「あのシマエナガめちゃくちゃ可愛くない!? ふわっふわだし、真っ白で」
「本当だー!」
私は公園に集まる大勢の人が見守る中、枝に止まって丁寧に羽繕いをしていた。
スマホをこっちに向けて、写真や動画を撮っている人もいる。今日なんかテレビ局も撮影に来ているようだ。
そう、今の私はアイドルシマエナガだ。
人なつっこくて、見栄えもいい。そんな特徴を持つシマエナガとして私は今、大人気なのだ。
誰かが私の姿を動画撮影してネットに上げたら、大バズりしたのが始まりらしい。
人間の時には叶わなかったのに、シマエナガになってからアイドルになる夢が叶うなんて皮肉なのかなんなのか。
だけど、やっぱりシマエナガだって怠けていても可愛さが維持できるわけじゃない。
このふわっふわの羽は私の努力で保たれている。なにもしていないのに可愛いとか思っていたのは、すまんかった。
私は時々カメラの方を向いて可愛く鳴き声を上げながら、可愛さを維持するべく羽繕いを続ける。
「きゃー! 羽繕いしてるの可愛いーーーー!」
また私を賞賛する声が上がっている。
さあ、見るがいい。人間だった頃の私には見向きもしなかった人々よ。
ただお手入れをしているだけなのに可愛い、この私の姿を!
シマエナガをディスっていた私がシマエナガに転生してしまったんだが 青樹空良 @aoki-akira
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