第2話

「さっきから一体誰と話をしているの」

と彼女の声が聞こえてきた。

「鷹男さ」

鷹男?とひたすら疑問符を

浮かべているのであろう。

要するにこういったことである。

現オーナーが自分で

次のオーナーが彼女である。

ということはオーナーであるただ一人のみが

見えることのできる

存在であるのだろうと思った。

突然強制退去を命じられるかのような

気持ちを体験する。

「私お腹が空いたわ。朝から何も食べてない」

私は彼女に提案した。

「ブラック・チェリーとパンならあるよ」

「ブラック・チェリー?」

「そう、食べてみる?」

「いや、私はいいかな」

遠慮しないで、と木で作られた机の下の

重たい壺を持ち上げる。

抜ける様な音がして壺の蓋が開かれる。

「この場所にしかないチェリーだよ」

ブラック・チェリーなんて、

腐ったチェリーに違いないと

彼女は思っただろう。

漂うその香りを彼女は真剣に嗅ぐ。

「悪くないわね」

それよりも、それよりもだ。

私は何よりもその木を探さねばならないのだ。

「なあ、鷹男」

「なんでしょう」

「それはどんな木なんだ?」

鷹男は口を紡いだ。

「それはお答えできません」

「お答えできないだと?」

「はい、ええ」

「どうして?」

「この世界の鉄則でございます」


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