デヴリ

雛形 絢尊

第1話

「ここよりもいい場所がありますよ」

と鷹の被り物を被った彼は言った。

私はこんなにも精神的に追いやられているのかとそこで自覚することになる。

私は白衣の様な服を気慣らし、

病院の様なその場所にいる。

そこに至るまでの経緯は覚えていない。

然し乍ら、毎朝壺の様な容器に入った大量の

ブラック・チェリーのジャムをパンに

塗りたくるのは嗜好である。

この場所の名前はない。

強いて言うなら鷹の森。

白い靄に包まれ木々に囲われている。

そして私と鷹の被り物を

被った男以外に誰もいない。

そんなある日、ある少女が姿を現した。

どこからともなく現れた。

年齢としては私とさほど変わらない、

小柄で華奢な女性である。

「ねえ、貴方は」

そういえば私の名前は、思い出そうにも

思い出せない。

「仮に僕の名前をAとしてくれ」

彼女は少し微笑んで

「そうしたら私はBね」と言った。

私は鷹男を指差して彼を紹介しようとする。

「彼が鷹男、変な奴だよ」

「鷹男?誰もいないわ」

怪訝そうな表情、

というかその雰囲気で彼を見た。

彼はそれに気づき、私に言う。

「この場所には一人だけ、

そう、生きることができるのは一人のみ」

鷹男は背筋をしゃんと伸ばしてこちらに言う。

「それじゃあ、彼女は」

咳払いを一つし、鷹男は彼女を見る。

「つまり貴方様はじきにこの森を出る」

私は彼女の存在に目もくれず、

ただただ疑問を投げかけた。

「それじゃあ、鷹男。どうやって

ここから出るって言うんだい」

鷹男はこくりと頷いた。

「ではお教えしましょう。

この森の中の

一本の木が現実の世界と繋がっております。

その木を彼女が現れた先ほどの時刻。

明日のその時刻までに

その木を見つけなければ戻れません」

「失敗すると」

「そうですね、言い難いのですが」

「言い難い?」

「命を落とすことになります」



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