第4話 猛追
木々の天辺の枝に足が着いたかと思えば、既に次の木に移り終える。脆い古葉は巻き起こる渦風に巻き上げられ、あまりの早さに重みで末枝が
「いる、いるねぇ。いるんだよねぇ。確実にこっちだ」
無意識に笑みが
「!」
突如として少年の足が止まる。少年が見つめる先───森が開けた先には端の見えないほどに巨大なレンガの壁が
「うわぁ……まさかサプタの言う通りになるとはなぁ。これがエクスリア外壁ってやつ?でっかいねぇ。仕方ない、念のために持ってきたこれを使う番だね」
少年はポケットから一枚の紙を取り出し、すっと地面に降りるとゆっくりと歩き始めた。どこで拾って来たのか分からないが、彼の知人から持っておけと押し付けられた紙。彼の目の前に立ちはだかるエクスリア外壁はサンティレアの防衛の最前線。あまりの巨大さに近寄っているはずなのに見た目が全く変わらないので、距離感が狂う。そしてどの外壁よりも衛兵の数は多い。しばらく歩いたか、最寄りの門まで移動して衛兵に一礼してから適当な理由を繕う。
「すみません、中で買い物をしたくて」
「どうぞ」
大きな音を立てながら
「───こちらエクスリア第6門。異彩眼、銀髪の不審な少年を確認。グラモニッドのものと思われる衣類を着用。正規の通行証を持っていたため通行許可。本部への報告は───はあ、しかし───はい。承知しました。」
■■■■■
エクスリア外壁の門をくぐる。噂にこそ聞いていたが、いざ商業地帯の活気を目にすると圧倒されるものがある。
「お~い!そこの君!ちょっと待って!」
少しばかり遠かったがこちらの声には気づいたようで、こっちを向いて立ち止まってくれた。
「ごめんね、急いでただろうところを。君は、キドロア・セルエイクという青年を知らないかい?」
失礼な話、正直知っていそうな顔でも雰囲気でもない。ただ優しそうな顔をしていたので聞いたら答えてはくれるだろう、という安直な発想からだ。青年は一応思い当たってはくれたのだろう、首をかしげて考え込む仕草をした。
「キドロア……?いや、聞いたことないなぁ」
案の定首を横に振った。少年としては青年が嘘をついているようにも見えない。親身になって記憶を整理しているような表情を見る辺り、本当に知らないようだ。割と名前は知れているはずだ、とサプタという知人から聞いていたがそうでもないのだろうか。少年は内心見切りをつけ、腕を頭の後ろで組んで一つ伸びをする。
「そっか。やっぱ知らないよね。仕方なーーー」
その刹那の風圧、魔力の流れ。遥か上空にいようとも、少年が感じ取れないはずもなかった。莫大な人口を抱えるサンティレアといえど、上級魔法、殊に最上級魔法を使いこなす者など数えるほどしかいない。そのような人間からは当然強い魔力が発せられているし、その人間本体の位置も掴みやすい。その上少年には人間の風貌を僅かながらに視認できた。黒髪で長身。その青年もまた
「……いた」
少年の愉悦と狂喜に満ちた笑みと意図せず零れ出た独り言は隣の青年にも伝わったようで、ひきつった顔でこちらを見ていることに気がついたのは去り行く標的を見届けた数秒後だった。
「ああ、ごめんね。何でもないよ。とにかくありがとう!急用が出来たからじゃあね!」
即座に高く飛び上がったところでふと止まる。強大な魔力の流れを、狙い定めたあの男を追うことに傾倒しすぎて一つ見落としていた。直前まで尋ねていた茶髪の青年。彼からも微力ではあるものの魔力の流れを感じ取れたことを。つまり彼も魔法士、いや、これから魔法士になる人物かもしれない。
「なるほど……。もしかしたら、近いうちにまた会えるかもね」
少年は高揚を隠しきれないと言った様子で、サンティレアを東に突っ切っていく。感じるままに、赴くままに。───マフラーの青年を追い求めるままに。
■■■■■
偶然にしては少々出来すぎている気もしたが、探し始めて30秒。何はともあれ仮実習のチームメイトは揃った。
「キドロア・セルエイクだ。よろしく」
立ち上がって、草や土が付いて汚れた衣服をはたくサルカーノにロアは手を差し伸べる。こける理由は良く分からないが、遅刻しそうになって急いでいたのだろうと言うことはなんとなく読み取れたので触れずに置いた。ルカがロアの手に気づいて手を出し、サルカーノを引き上げた後二人は握手を交わす。
「キドロア……?どっかで聞いたことがあるような気が……」
「……?俺は君と会うのは初めてなんだが」
ルカは何かを思い出そうとしていたが、少しして諦めたように首をかしげた。そんなルカとミリーナを交互に見やりながら早速なんだが、と一つ前置いて説明を始める。
「二人とも事前説明で聞いて理解しているとは思うが、球体はこの広大なウレバの森の中に20個しかないし、どこにあるとも示されてない。かといってさっさと見つけないと、就職そのものはできても、有り体に言って出来損ないの烙印を押されてしまう。その上入手方法は問わないときた。もしも球体を所持したまま他のチームと出くわした場合、どうなるか分かるな?」
ロアの説明を頷きながら聞いていた二人が、質問に対し少し考え、閃いたように顔を上げて言葉を発したのはほぼ同時だった。
「力付くで奪いに来る可能性がある」
「譲って欲しいとお願いされる」
想定解を述べたミリーナとは対照的に、サルカーノの答えにロアは面食らった。どこのお花畑で生まれ育ったのだろうか、と出かかった侮蔑とも取られかねない質問をすんでのところで飲み込み、恐らく事の本質と重大さと危険性を理解していないサルカーノに再度詳しい説明を捲し立てるように始める。
「あの、いいか?皆自分の配属先、先を見据えれば昇進にも響くかもしれないこの仮実習。誰もが必死になる。その上どこにあるのか分からないんだから、勝負吹っ掛けて持ってるやつから無理矢理奪った方が当然楽だ。持っているところを他のチームに見られたらミリーナの言う通り、力付くで奪いに来る奴が必ず出てくる。球体を同時に見つけたら場合なんかも絶対に取り合いになるのは分かるよな?」
サルカーノは気圧されたかのようにおずおずと頷く。
「そうなった場合、実力の程度の知れない3人を相手に、二人と良くわからん球体を守りながら戦うのは───正直しんどい」
幹部候補生トップクラスの実力を持つノルアスすら手玉にとって見せ、試験も実力測定不能の文句無しの首席合格、青紙を得て鳴り物入りで入隊への門戸を叩いたロア。しかしそれは対戦が1対1だったから。自分一人で良かったから。対複数の戦闘では戦い方も、魔力の消費量もまるで違う。更に今回は護衛対象となる人間が二人、物体が一つ。極端な話、ロアからすれば6対1のようなものである。恐らく単体で見れば虫けら同然と言える大概の受験者も、複数人、そして何チームも束になってかかってくる連戦となると労力も時間も無駄になる。蹴散らそうと派手な魔法を使えばその音や衝撃で更に別チームが来ることにも繋がる。
「欲しけりゃどうぞの仲良しごっこやってるんじゃないんだ。いかなる状況でも臆せず魔法が使えるかどうかは軍人としてめちゃめちゃ重要なこと。優しいだけじゃ何も守れんからな」
サルカーノに向けて諭したつもりの言葉だったが、ロア自身にも少し刺さったのは言い放った後だった。何も守れないのはまさしく自分も同じ。まだ幼い頃、魔法を覚えている段階では母が無理が祟って病に倒れ、今となっては大切な恩師の身の安全どころか消息も掴めない。魔法を身に付けたところで守りたいものは
「……とにかくだ。出来る限り早くオーブを見つけて、出来る限り他のグループとの接触を避けてここに戻ってくるべきなんだ。その為に二人には俺に付いてきて欲しい」
ロアの真面目な顔と声色に、二人は気圧されたように、ではあるが強く頷いた。
「でも、具体的にはどうしたら良いんですか?」
「簡単な話だ。やることは一つ───」
ミリーナの質問に対するロアの返答が早いか、ガオニの大声が再び通る。
「大変お待たせした。それでは皇歴1033年度、ヘイグターレ帝国軍、国家魔法士仮実習を開始する!」
一段と大きくなった声で試験開始の合図が告げられた。それと同時に三人揃って空中に浮かび上がり上空から探索を試みるチーム、裏をかいて森の中へ駆け出していくチームなど、オーブを目指して三々五々に散っていく。ロアたちはと言うと───
「うわああああああああああああああああ」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「やかましいな。急に飛び上がったのはすまなかったが、もう少ししっかりしてくれ。ちゃんと捕まってないとこのままのスピードで地面に叩きつけられるぞ」
ロアの得意とする風属性の移動魔法、
「ん……あれが丁度いいな」
少し先の方に開けた空間が見てとれた。更に近づくとそこには倒木があり、どこかしこも薄暗いはずのウレバの森に煌々と陽が差し込んでいた。ギャップと言うのだと聞いたことは覚えているが、誰からなのかは忘れてしまった。朽ち倒れてからそこそこ時間が経過しているようで、その倒木を栄養源として細々とした草木が根を据えて真上に背を伸ばしている。流石に空中にオーブを置いているわけはないだろうから、そろそろ降りて探索をしたい。加えて二人を休ませるためにも地に足を付けたいと考えていたロアには好都合だった。
「降りるぞ」
二人に返事をする余裕は無かったようなので待つこと無く更に
「|追風(タービル)程度なら余裕そうだな?」
「え!?あ、は、はい、自分でも、つ、使えますので……で、でも
「そうか、それはすまなかった……。でもさほど疲れてないのは凄いな」
「い、いえ!キドロアさんの方が凄いじゃないですか!私達二人を引っ張りながらあのスピード凄いですよ……!私なんかまだまだ……これもただ親族に国家魔法士がいるという血筋のお陰というだけですので……」
ロアとのこの会話の間も常に目は合わせない。謙遜しているのと引っ込み思案なのは伝わったが、緊張から来ているであろう早口が尚更聞き取りづらさに拍車をかけている。
「俺だって、ただ師匠に教わっただけだ。親父は物心付く前に亡くなってたし、その親父も魔法士だったらしいが軍にいたわけではないし……母さんは魔法士ですらないしな。だから俺が証人、とまでは言えないが血筋が全てじゃないってのは確かだ。ミリーナも努力次第で強くなれるさ」
父、ファラドの話はほとんど知らない。というのも母も兄も、父と親しかったはずの恩師ディアゲラすらもほぼ話してくれないし、話したがらない。母の作るリンゴのケーキが好きだったとか、お酒はあまり飲まなかったとか、日常的なことは気兼ねなく話してくれるのだが、魔法士時代、帝立央魔院にいた頃の仕事の話になると
「お師匠さんか……キドロアさんみたいにとても強い人なんでしょうね。私の親族には軍に所属している人がいるんですよ。とても忙しい人で、最近は全く会えてないんですけどね……」
「そうなのか。軍に入ってその人と一緒に働けたら良いな。俺はそれを夢にしてるぐらいだし。確かに師匠は俺なんかよりも遥かに強い人だ。実力的にも、精神的にも。劣勢になることがないぐらい強いし、不測の事態にも動じない。比べるのも
この話の間もミリーナは目を合わせようとしない。ディアゲラの話をしたにも関わらず、心のモヤモヤは不思議と感じなかったことにロアは喋った後に気づいた。師匠を誉める話だったためだろうか。なにはともあれ、名前が出ずとも話題に上る度にじりついていた不快感を感じなくなったことにほんの少し爽快感と安堵を覚える。そこにようやく息の整ったサルカーノがふらふらと立ち上がり、口を開く───かと思いきやいきなり涙を流し始めた。ロアとミリーナは訳が分からず顔を見合わせるが、ミリーナは即座に顔を逸らす。やはりどうやっても顔を合わせてくれない。そしてロアはようやくミリーナの耳が真っ赤なことに気づいた。体調でも悪いのだろうか。
「サンティレアの人ってこんなに魔法が使えるのか……。やっぱり僕には無理だったんだ……」
「な、なんだ。どうしたいきなり」
サンティレアの東にあるナザームという村から来たということ。11人家族の長男であること。村唯一の魔法士になれたことが分かった。その上、家族全員に期待されて寝る間も惜しんで魔法の鍛練と勉強に勤しみ、どうにか掴んだ魔法士の道。自分でいうのも難だが努力はしたのでそれなりに通用する、と思っていたらしい。それをキドロア・セルエイクという化物じみた強さの魔法士と出会い、淡い希望を粉々に打ち砕かれたのだという。別にロアが悪いと言っているのではない。サルカーノ自身がいけると思っていた程度の努力では通用しないことに打ちひしがれているようだ。このままでは無理を通してでも親身になって協力してくれた家族に顔向け出来ない、と自分の非力を嘆いているのだった。ロアは内心呆れながらも励まさねばならないと思い、口を開く。
「俺自身がいうのもアレだが、俺レベルのやつは同期にいない。それどころか軍でも数えるほどしかいない。普通の新入りは皆お前レベルだし、今後お前が会うだろう上官でもそうそういないと言っておこう。だからなにも嘆くことない。軍に入れば好きなだけ魔法も練習できる。逆に言えば嫌でも魔法は鍛練させられるから自然と上達する。それはそれとしてだ。別にさっきのは見せびらかすつもりだった訳じゃない。俺は自分の夢のために、いずれは軍の上層部に登り詰めてやろうと考えているんだ。個人的にはこんなちょっとした試験一つで
サルカーノは教本に頼るしかなかった環境だっただろうが、ロアは教本など一度も読んだことがない。全てはディアゲラとの鍛練とその中で使った、もしくは使われた魔法の復習がほぼ全てだ。筆跡が人によって違うように、魔方陣も人によって書き方や属性の得手不得手が異なる。サルカーノも自身に合う練習の仕方や得意な属性が見つかれば、これからいくらでも実力は伸びる可能性を秘めていることも話した。それを聞いて少しは気が楽になったのだろうか、サルカーノは寄りかかっていた木から体を離して独りでに立ち、服についた細かい草を払う。
「……ありがとう。少しは希望が持てたよ。それに、気付いたよ。今ここで諦めてしまったらそれこそ家族に顔向け出来ないってね。納得が行くまで頑張ってみる」
よく言えば感受性豊か、悪く言えば浮き沈みの激しいやつ。率直な感想はそっと胸にしまい込んで、同意を示すように強めに
「気持ちの整理と休憩が済んだらこの辺からオーブを探し始めよう。受付の見本を見た限りは白い球体だった。この薄暗い森の中なら白は目立つはずだ。パッと見で見えないなら葉の裏、岩の裏なんかに置かれてるかもしれない。くまなく探して欲しい」
ミリーナもサルカーノも頷いて返し、立ち上がる。
「ああ、それと……ミリーナ。大丈夫か?耳が真っ赤だったが。体調でも悪いのか?」
いくら仕事とはいえ体調不良で倒れられたら困る。もしこのままミリーナが倒れたら受付まで連れて帰るか、監督官であるガオニの部下達に来てもらう必要がある。時間の浪費は免れない。加えて実力を考えるとサルカーノを置いていくわけにもいかないから、連れて帰るとなると今度こそサルカーノがロアの魔法に耐えられない可能性がある。いずれの対応を取るにしろ、魔法適正以外の不安材料があるなら出来るだけ早く取り除いておきたいのがロアの本心だ。ミリーナは全力で首と手を振りながら否定の念を示す。
「ちちちちち違います!どっこも悪くはないです!ないですよ!ただ───」
「ただ?」
「び、ビックリしただけです……いきなり男の人と手を繋ぐなんて……父親以外なかったので……」
完全に盲点だった。ミリーナは紛れもなく年頃の女の子なのである。幼馴染みのリカは話の途中でツッコミを入れるついでに軽く小突いてきたり、買い物に付き合わされる時は手を握ったりするなど傍から見ればかなり積極的に見える───だがそもそも向こうからは恋愛対象から除外されている。だから異性として意識していない場合、女性の立ち振舞いとはそういうものなのだろうと勝手に勘違いしていた。むしろリカがスキンシップに抵抗が無さすぎるのである。通説、他者を手を繋ぐこと自体、信頼の置ける人としかしないものだ。そしてそれが異性ならそのハードルは更に高くなる。ましてやミリーナはただでさえ奥手な性格のようなので、ロアにいきなり手を繋がれたときの困惑と恥ずかしさは耐えがたいものだっただろう。ロアは効率のみを重視した自分の軽率さを恨むと共に、ミリーナの前に跪いた。ヘイグターレでは片膝を地面につき、頭を垂れる仕草が最大級の謝罪の形とされている。
「それは大変すまなかった。実習のこと、自分の成績のことしか考えていなかったせいで、人としての基本的な部分を忘れてしまっていた。あなたの尊厳を傷付けてしまったことを心からお詫びする。許して欲しいとも、無かったことにして欲しいなどとも言わない。せめて、この仮実習の間だけでも、怒りを沈めてくれないか」
自分を責めてやまないロアに、ミリーナは再び首と両手を横に振る。
「そ、そんな!やめてください!怒りだなんて、何一つ怒ってないですよ!ほんとに、ほんとにただビックリしただけなんです……そ、それに!ぎ、逆にちょっと嬉しかったんです……わ、私引っ込み思案だし、ドジだし、喋るときもす、凄い緊張しちゃうから、あんまり言いたいこと言えなくて、よく周りに置いてけぼりにされるんです。でも、キドロアさんはちゃんと連れてってくれたのが、実はちょっと嬉しくて……」
そういうルールだったから連れてきただけ、という自身の考えはすんでのところで飲み込んだロア。それにしてもなんだこの純粋な生き物は。どういう環境で育てられたらこんなに素直な人間になるのだろう、という邪な感情もしまい込んで、平静を保って受け答える。
「……そういって貰えて何よりだ。でも、本当に体調が悪くなったり、大怪我をしたらすぐに言って欲しい。そんな状態の人間をあちこち連れ回すのは良くないし、治癒魔法でどうにもならん場合は本部まで連れ帰らなきゃならないだろうからな……。とはいえここで途中棄権するのはミリーナの今後に関わりかねんのも事実だが」
恐らくは人に、
「そ、そうですね。何かあったときはすぐ言いますね」
ミリーナは頻りに首を縦に降り肯定を示した。丁度会話の終わりに、何のことやらと突っ立っていたサルカーノにも何かあったら申し出るように伝えた。休憩時間を含めても10分程度しか経過していないので、他のグループに遅れを取っていることはないだろう。
「よし、仕切り直しだ。手分けして探そう。俺は森の中を探す。ミリーナは日の当たるところから、サルカーノは小川の方を探してくれ」
迷っている時間は無駄なので手早く割り振りを決めて指示を出し、捜索を始める。勝算があるわけではないが、ものは試しと、魔力を帯びた物を見付けられる魔法、
「うっわ……ずぶ濡れだ。付いてないなぁ」
そういえば試験が始まる前も派手に転んでいた。なにかと
「はぁ……。そうだな、
ロアは嘆息しながら助言する。サルカーノも輪炎ぐらいは使えるようで、ロアの指示通りに自分を取り囲む形で輪炎を作り出し、服を乾かし始める───その場で。
「いやいや、川から上がってやらないとズボンがいつまで経っても濡れ続けるし靴も濡れてるだろ」
ロアに言われて下を見て初めて気付いたのか、ああと声を上げながら川から上がろうとするサルカーノ。水をたっぷり吸って鉄板入りの訓練用軍靴並みに重くなった革靴を水中から上げようとしたとき、
「ん?」
足元の水中に手を突っ込み、何かを持ち上げた。掌にすんなり収まる大きさのそれは、他の小石とは一線を画す、純白で完全な球体。それ自身も淡く発光している。
「これって───オーブ?」
サルカーノが呟くのとロアが川の中に足を突っ込むことも
「良くやった、サルカーノ。君は運が良いのか悪いのか分からないな……。間違いない。これは試験開始前に見せられたあのオーブそのものだ。後は落とさないよう、誰とも会わないよう3人で帰るだけだ」
「サルカーノさん、凄いですね!陸の上を探してた私たちでも分からなかったのに水底に沈んでるオーブを見つけるだなんて!」
二人に誉められたサルカーノは事を理解しきった様子ではないが称賛の言葉は伝わったようで、上機嫌でニヤニヤしている。何はともあれ、休憩したことを除けば驚くほどトントン拍子で事は進んでいる。後は二人の疲弊に注意を払いながらガオニとヴェジルの元まで帰るだけだ。
「───! 二人とも、待ってくれ」
僅かな空気の流れの変化。本当に小さな不快感をロアは察し、それをそのまま流すに値しないものと判断した。獣の臭いとも、
「───何かがこちらに来てる。この森にいてはいけないものが」
ディアゲラやグアジェドのお陰もあり、同年代の者より遥かに多くの魔法士を見てきたロア。人間、
「川の向こう岸───!!」
ロアがようやく違和感の正体、その方向を感じ取りその方向を見やった時、すでに"それ"は敵意に満ちた闇属性の魔法を放っていた───ミリーナに対して。
「なっ───」
即座に右手を構えたがどんな魔法をつかおうとも絶対に間に合わない。ならばせめても回避させねば。そう判断したロアは咄嗟に左手でミリーナを突き飛ばした。
「えっ、───」
肩に急な衝撃を食らったミリーナは半ば吹っ飛ばされながらよろめき、"何者か"が放った魔法が左肩を掠める。吸い込まれそうな暗闇の尖槍が音速にも等しい疾さながらに音も纏わず、周囲の空気ごと一帯を貫く。ロアの咄嗟の行動により直撃を免れたものの、軽撃を食らったミリーナは目を見開き、全身が硬直したまま倒れていく。ロアは思うが早いか、それを
「
ロアは無意識に一人ごちていた。脊髄の動きを抑制する
「───惜しいな。でも、見つけたよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます