投げナイフ縛りの配信者

「っしゃあ!!独裁者ぶっkill!」


 コントローラーを片手に握りしめながらゲームクリアの余韻に浸る。


【ニキ:マジでやりやがったww】

【moon:最高難易度おめです】

【ゆずず:ダイイングオーバーに続いてクライ・オブ・ウォーまでもが縛りプレイの餌食に……】


 配信画面に映るリスナーからのコメントに口角を上げる。


「餌食とは人聞の悪い、勘違いしてるようだから言っとくけど。これらのゲーム達がチャレンジャーだから」


【moon:異常悟がログインしました】

【まみるん:縛りプレイをする人はいますが……】

【にににー:製作者「あの……これ銃ゲー……」】


「銃なんか要らねえ!ナイフで充分!」


 そう、投げナイフこそが至高だと。

 投げナイフ縛りのゲーム実況者である俺は何度でも言ってみせる。


【ニキ:※彼は変態です】

【にににー:知ってた】

【moon:知ってた】


 この言われよう。

 とはいえこれもリスナーからの愛と受け取る。

 全ての敵兵や兵器、車両を含めて全て投げナイフで破壊してやった。

 ワンスロー・ワンキルを常時まではいけなかったもののスナイパーですらカウンタースナイプならぬカウンタースローかましてやったのだ。


「投げナイフ教でも布教してやりたいくらいよ、投げナイフはいいぞぉ〜すぐ作れる、使い回せる、火薬もいらない、とても静か、そして極めつけは……」


 指でパチンと音を鳴らす。

 そしてマイクに寄せて低くイケボを意識する。


「食事にも使える(キリッ)」


【まみるん:そちらが主要用途です】

【にににー:当たり前体操〜🎵チャンチャン】

【アモーン:ダメだこの配信者なんとかしないと】

【ニキ:あっちの投げナイフも火を吹くのかな?笑】


「おう、こらぶっkillすぞ」


 ゲームのエンドロールと共にクレジットが流れる。

 権利どうこうの配慮の為にゲーム音を消して自分の配信用のBGMに切り替える。

 机の横にある酒を傾けながら配信終盤のリスナーとのお話タイムに入る。


 ゲームの感想。

 プレイの感想。

 次やるゲームや一緒にやりたいゲームの談話。

 たまに投げてくれるスーパーチャットに笑顔でお礼を言いながら会話を続ける。


【moon:しかしほんとにいいコントロール、ゲームとはいえ】


「ははーん、現実では投げナイフが使えないと思ってるな?残念、趣味でよくペーパーナイフとかを壁に投げてる。ちゃーんと狙ったところに刺さってるぜ」


【にににー:物騒!?】

【ゆずず:うわぁ、引く……】

【まみるん:お〜、なんかダーツとか強そう】


 ダーツが強そうというコメントに思わず苦笑いした。

 ほんとにそうならワンチャンプロを目指してたところだが。


「と、思うじゃん?ダーツの矢だと的に当たるけど刺さんねえのよこれが、ナイフと同じ要領で投げるもんだからダーツ矢が回転しながら的に向かうんだけどそのせいで刺さらず記録0なのよ。あれだよ?ちゃんと当たる場所は全部ブルよ?」


 ちなみに正しい投げ方で投げると綺麗に的を外す。


【moon:才能の無駄遣い】

【にににー:前世は忍者かな】


「そうねー、生まれる時代を間違えたかもしれない。全くもって勿体無い。ま、こんな時代だから温かいリスナーに囲まれたんだけどね。そうだろエビバディ?」


【moon:あー、うん……】

【にににー:そだねー】

【まみるん: (;・з・) ~♪】

【ふっちゃん:(苦笑)】

【ニキ:あたた……かい?】

【ゆずず:この温度差である】

【あもーん:戯言】


 この反応である。

 やれやれ愛されてるなちくしょう。


「さて、そろそろ枠を閉めようか。また明日……はバーテンの仕事入ってるから、明後日かな。次回のダガーノートの投げナイフ無双をお楽しみに!来てくれてありがとう!俺の活躍のご視聴サンクス!see you ばいちゃー」


 リスナーのみんながお疲れ、もしくはばいちゃーとコメントを残し俺は配信を止めた。


 俺の名前は能登刃元。

 アカウント名、ダガーノート。

 登録者数はゲームのスキルとバーテンダーの仕事で身についたトーク力の甲斐もありようやく4桁になった駆け出しのストリーマーだ。


「ふう、俺も配信者一本で食っていけるようになりてえよ」


 自分の登録者数を見て遠い夢、否不可能に近い妄想かもしれないと天井を仰いだ。

 何も平凡なサラリーマンになりたくなくて配信業を志すわけでもない。

 そして俺は金持ちになりたいわけでもない。


 ただ俺は主人公になりたいんだ。

 人を巻き込み一つの空間、世界の中で真ん中で主人公になりたいんだ。

 そして配信をする時だけは俺はその枠で主人公になれる。

 そんな主人公になれるこの瞬間がお気に入りであり生きる活力だ。


 それでも生きるためには金が要る。

 俺の配信による広告料ではまだジュース1杯も買えない。

 どこかの事務所専属も遠い道のりだ。


「全くもって悲しい限りだ」


 カッターナイフを手に取り刃を出す。

 そして振り返りカッターナイフを投げた。

 壁を登っていたゴキブリを貫通しカッターナイフが壁に刺さった。


「命中🎵」


 投げナイフ。

 というよりも刃物による飛刀は嘘でもゲームだけのテクニックでもない俺の特技だ。

 包丁や食事用のナイフなど色んなものを投げては的に突き刺してきた。


「……ほんとに、生まれる時代を間違えたかもね」


 そんな特技なんの役に立つ。

 耳にタコが出来るほど言われてきた。

 実践しようにもこの平和な島国に戦争はない。

 仮に軍に入ったところで21世紀の現代に投げナイフで戦うアホはいるわけもない。



「さて、寝る……前に何か食べよっかな〜🎵夜食は身体に悪いが俺は縛りプレイで最高難易度をクリアというお仕事の直後。夜食という背徳感溢れるご褒美にあやかる権利がある!」


 椅子から立ち上がり台所に向かう直後だった。


 ズキンッ!


「!?」


 突如として胸の強烈な痛みに倒れた。

 痛みに加え吐き気を覚え呼吸もままならなくなった。

 冷や汗が止まらない俺は流石にまずいと思い119番通報のためにスマホを探す。

 スマホはベッドの脇に置いてあった。

 這いつくばりながらどうにかベッドまで辿り着く。

 やっと思いのスマホを手に取るがなんとスマホの充電は0%だった。


「う……そだろ……」


 胸の痛みが強まり意識まで遠のいてきた。


「い……いやだ……俺は……まだ」


 配信用の機材に手を伸ばした。

 死にたくない。

 俺にはまだ期待してくれる人が、待ってくれる人がいる。

 それにまだ俺は主人公になれてない。


「み……ん……な……」


 無念の涙が一筋流れるのを感じ俺は意識を手放した。

 意識がなくなる刹那、人の声が聞こえたような気がした。


【ごめんなさい】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

投げナイフで暴れるストリーマー @Reboot_panisher

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ