投げナイフで暴れるストリーマー

@Reboot_panisher

This world is liberty

《》「絶景かな絶景かなぁ〜どうよ皆さん中々いい夜景とは思わないかい?そして素敵な夜景が見えるこのスポット!やけになって登ったわけじゃないよ?」


 誰に向けてでもない独り言。

 それでも前世の性か自分を見ている傍観者を意識してしまう。

 夜空に輝く星空を眺めながら目を凝らしていた。

 そして空に一筋の光が線を描いてすぐに消滅した。


「あった〜流れ星!いい事ありそう!明日はきっといい日になる〜🎵いい日になる〜🎵」


 満足げに頷きながら時計を確認する。

 そろそろ予定時間。


「きたきた」


 煙突の上から目的の一団は列を成して行進していた。

 数は《《》》少数、標的は1人。

 護衛に守られる馬車には2人の人物。


 手段は問われてない。

 皆殺しがシンプルかつ手っ取り早い。


「だがしかしbut……俺を愛してくれる神はそれを善しとは言わない」


 マスクを被り切り換える。

 マジモードだ。

 腿に備わっているナイフを鞘から抜く。

 空中に放り投げ刃を指で掴みとった。

 そして構えながらその時を待つ。


 まだ早い。

 まだ。

 射程圏、しかし標的視認出来ず。

 最接近、だが射角が取れない。

 距離を離される、まだ射程内だが標的が遮られている。


 そして射程圏から抜けるまでの一瞬、最適な瞬間が訪れる。


 ーー見えた!そこだァッ!!


 腕を振り構えたナイフを投げた。

 投げナイフは弧を描きながら標的に向かっていく。

 そして馬車の窓を突き破り、帽子を被った男の額に深々とナイフが突き刺さった。


「ッしゃあ!!」


 離れ業をやってのけた俺がガッツポーズをする。

 そんなガッツポーズがバランスを崩した。


「あ」


 そしてその時に足を滑らせた。

 掴まる場所もなく屋根から転げ落ちていき。

 護衛たちの目の前に落下した。


「ぎゃふ……」


 幸い高さはなく落下による怪我はない。

 だが、護衛対象の死を確認し同行者を落ち着かせるために奔走する護衛はもちろん穏やかじゃなかった。


「貴様ァ!!刺客か!?何処の手の者だ!!」


 おそらくは傭兵と思われる屈強な男たち5人。

 全員剣を抜き臨戦態勢を取っていた。


「えーっと、通りすがりの通行人Xです」

「ふざけてるのか貴様ァ!!」


 この期に及んで誤魔化しは無理。

 まあ、分かってた。

 ダメ元でした、うん。


「はあ、殺り逃げは失敗か。インファイトは好きじゃないんだけども。いやほんと、物事向き不向きってあるもんだしさ〜どんなに愛してやまない武器にも輝けない場所というのがあるからにして」


 力説する俺を無視して護衛が剣を振り上げながら地面を駆けた。

 話を聞きやがらないド早漏が。

 大きなため息をつきながらマスクの下で護衛を睨む。


「お話(ぜんぎ)がまだ途中だろうが」


 ーーー


 街の喧騒に溶け込みながら目的の場所へ向かう。

 良い街だ。

 この街並みをリポートしたいところではあるが、人の目がある。

 自重した。

 カメラやリスナーがいないのが残念だ。


「全くもって勿体無い」


《怠惰なる穴熊亭》と看板を掲げる宿の扉をくぐる。

 ここが目的地、街の人々が席につき食事や酒盛りそして馬鹿騒ぎをする中店の主人の元へ向かう。


「いらっしゃい、ご注文は?」

「いや、待ち合わせだ。“アメジストの商談”で時間がかかってねぇ」


 主人は顔色を変えずにグラスを拭いた。


「ほお?“問題でも起きたか?”」

「いやいや“捨てられたピアノ”に夢中になっててさ」

「なるほど、それは俺も気になって足が止まるかもしれないな。それで“そのピアノは何処にあったんだ?俺も後で見てみたい”」

「“スラムと5番街の岐路にある”」


 そういうと店の主人はグラスで不規則にテーブルを叩く。

 意味はまだ知らないが何処へ向けてかは分かる。


「3階にいる、お疲れさん。アメジスト」


 店の主人はそのまま厨房に引っ込む。

 アメジストこと俺は待ち人の元へ向かうために階段を登る。


 さっきの主人との会話は一種の合言葉と隠語を混ぜた会話だ。

“アメジストの商談”→“アメジストが受けた仕事”。

“捨てられたピアノ”→“殺害したターゲット”。

 と言った具合だ。

 最後の方は要するに確認するから何処で殺ったか教えろという会話だ。


 階段を上がった俺は天井に伸びる梯子を確認する。

 この宿は“外から見れば2階建”だ。

 しかし組織の組員のみ3階の存在を知っている。


「戻ったか、アメジスト」

「はいはい、アメジストさん仕事終わらせて戻りましたよっと」


 右目に眼帯を付ける男。

 この組織を束ねるボスである男、シャドウが俺の帰還を待っていたように椅子に座っていた。


「ボスがお出迎え?嬉しすぎて涙がちょちょ切れそうだよ。それでもそんなに圧をかけられちゃ涙ではなく尿道から別のもんがちゃちょ切れそうになる、メンタル強くないんだからせめて菩薩のような表情浮かべてくれないものかな」

「相変わらず口数が多いやつめ」


 軽口の止まらない俺にシャドウが眉をひそめる。


「さて、仕事は終わった。報酬代わりに円満退社させてもらうぞ。異存はない……よな?」

「ああ、良いだろう。お前はもううちの組員ではない」


 シャドウがその言葉を言った途端に別の組員たちが突然姿を現す。

 そしてとても平和的な雰囲気でもないことに俺は溜息をついた。


「うん、まあ……想像はついてはいたけども自分で了承しておいて手のひら返しは長としてみっともなくねえか?悪いけど録音はしてるぜ?」

「勘違いするな、お前はもう組員じゃない。そして組員じゃない人間がこの部屋にいる場合どうするか、掟はもちろん知っているよな?」


 関係者以外のこの部屋の入室は御法度。

 見つけ次第殺処分。


「要するにはなから生かすつもりはねえってことだろ?全くもって嘆かわしい……仁義を欠いちゃ人の世は渡っちゃいけないって白髭(オヤジ)も言ってたぜ?」


 もはや問答不要と言わんばかりにシャドウ、そして他の組員たちが一斉に襲いかかってきた。


「投げナイフスキル第1章、投げナイフ《煙》!」


 投げナイフを床に投げつける。

 そして投げナイフが破裂して部屋中が煙で充満する。


「からの、投げナイフ《爆》」


 壁に投げナイフを刺す。

 そして投げナイフが爆発して壁をぶち壊した。

 三十六計逃げるに如かず。


「ばいちゃー!」


 ぶち壊した壁から飛び降り中指を立てながら脱出をした。

 向かいの建物に飛び移る。

 しかし移動はせず両手に合わせて8本の投げナイフを握る。


 影が動き煙をかけ分けて組員たちが飛び出す。


「いらっしゃいませ、ご注文は投げナイフでしょうか?」


 両手を振りかぶり投げナイフが組員たちを貫く。

 1人、また1人。

 最初8本のみならず次々と投げナイフを握っては投げるを繰り返す。


「ナイフが一体何本あるんだって?美女とナイスガイに秘密はつきもの。シーッ」


 煙が晴れる前に俺は走り出す。

 建物の屋根を走り抜け闇夜の影のように駆ける。

 そして城門を抜ける。

 街を離れ森に逃げ込み獣道を進んでいく。

 脱出路として考えていた滝壺まで辿り着くことができた。


「逃げ切れると思ったか?」


 シャドウが俺の真後ろから現れる。

 不意打ちをギリギリ交わしたがナイフを投げようとする刹那シャドウの蹴りを受け倒れ込んだ。


「コケにしてくれたなアメジスト、貴様だけは楽には殺さない」

「今まで人を楽に殺した試しないじゃんか」

「まだ減らず口を叩くと見える、だがもういい。首か命、もしくは心臓を貰うぞ」

「とどのつまり死ねってことじゃねえか、妖怪首置いてけってか?」


 シャドウが手のひらを俺に向ける。

 魔法だ。

 暗殺集団の長として卓越した魔法で数々の暗殺をこなして来たこの男は正攻法では勝てない。

 実力差は明確、喧嘩を売った時点で勝算は1割にも満たない。


 そう正攻法ならば。


 ーーさ〜て〜と、クエスト報酬使わせてもらおうか?


 魔法を発動させるだけ。

 チェックメイトだと言わんばかりシャドウは勝利を確信していた。

 それが敗因だ。


「投げナイフスキル第2章、ホーミング」


 シャドウに蹴り倒された時俺はナイフを遥か上空に投げていた。

 そしてそのナイフが落下しスキルの射程に入るのを待っていた。

 投げナイフは意思を持ったように軌道を変えシャドウの脳天を真っ直ぐ貫いた。


 何が起きたか分からぬ様子のシャドウが膝をついた。

 滴り落ちる自らの鮮血に状況を飲み込み目の前の男を睨みつけた。


「アメ……ジスト!!」

「残念、そのコードネームはもう使わねえよ。俺の名前はラブレス、ラブレス・ダガーノート。空前絶後の超絶怒涛のMr.投げナイフ野郎さ。記憶しなくて結構」


 脳天にナイフが刺さるシャドウの耳元で囁く。


「俺の活躍のご視聴サンクス、see you ばいちゃ〜」


 シャドウの目から魂が抜けたのを確認した。

 ボスは殺した、他組員もほとんどは間違いなく仕留めた。

 事実上の全滅と言っていいだろう。


「やれやれ、クエストとはいえ暗殺者になって名を上げるのも大変だ。しばらくはゆるーいクエストしてくれよ?」


 俺にしか見えない“物”に向けて口を尖らせる。


 軽くストレッチをして助走をつける。

 追手はないが手っ取り早くここから離れるために俺は滝に身を投じた。

 逃げの奥義。

“川にお任せどんぶらこ”だ。


 選択肢は無数だ。

 どの選択を選ぼうと自由だ。

 選択肢に正解はない。

 そして不正解もない。

 答えがないことばかり。


「だからこそ愛そう、ってな」


 口角を上げながら身を任せた。


 これは投げナイフを信じ、投げナイフを愛し、投げナイフと共に行く元ストリーマーである俺の2度目の物語だ。

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