02-08:一つ覚えたら一つ忘れるタイプ

「でもっ、年ごろの女子高生が休日ジャージー暮らしってあんまりですよっ! うち部員3人ですし、柔軟な対応しても……あむっ」


 勢いで先生のポッキーの端に食いついてしまった。

 なにをやってるんだ、あたしは……。

 先生も眼鏡越しにジト目の呆れ顔。


「あー……。要するにおまえは、蔭山とかわいいスタイルで行動したいだけだろ? ぼりぼり……」

「こっ、小声でお願いします! ぼりぼり……」

「そういうのは部活で親睦を深めて、オフの日に実現しろ。山登りは週1ペースだから、休みはちゃんとある……ぼりっ」

「部活で親睦……オフに……ぼりっ」

「学校に関係ないときなら、ロリータ服でも十二単じゅうにひとえでも好きに着てくれ……ぽりっ……」

「わ、わかりました……ぽりっ……」


 ──パキッ!


 至近距離に迫った先生が、顔を縦に振ってポッキーを二つに折った。

 終戦──。


「……教え子とキスなんて、懲戒免職ものだからな。さっさと戻れ」

「はい……もぐもぐ」


 うーん、言いくるめられた……ような。

 でも利賀先生の言い分にも一理。

 「いつもジャージー姿で山だから、たまにはおしゃれして街に出ようねー」なんて誘いかたもアリ!

 うむ、ここはひとまずジャージーで納得しておこう。

 ポッキーゲームは先生のほうから放棄したから、勝負に負けて試合に勝った!

 あ……ポッキー食べて思い出したけれど、衣食の食も問題!

 プリントには……お弁当もおやつも言及なし。

 さっきは部長さんに質問したから、今度は蔭山さんで──。


「……蔭山さん。お弁当やおやつは? ここに書いてないけど?」

「あ、それは心配無用です」

「心配無用……とは?」

「仁科さんが部費から、お昼と飲み物を用意してくれますから。飲食物に関しては手ぶらで来てください」


 えっ、なにそれ?

 メニューに選択の余地なし、おやつNGってこと?

 全員で同じの食べるんだったら、キャッキャウフフなおかず交換も……なし?


「……灯さん? アレルギーとか、苦手な食べ物ってあります?」

「うーん、ない……かな。強いて言うなら、レバーがちょっと苦手」

「あ、わたしもですー。でも鉄分豊富ですから、出されたときはちゃんと食べるようにしてますね」


 おお、苦手な食べ物一致!

 嫌いなものが共通してるのって、結束力に繋がるのよねー。

 敵の敵は味方、的な。


「飲み物はお茶とスポーツドリンク、どちらがいいですか?」

「えーと、じゃあ……スポドリで」

「わかりました。あとでLINEグループで共有して……あっ!」

「な、なにっ!?」


 蔭山さんが急に、なにかを思い出したような高い声。

 表情読めないから、こちらの驚きもちょっと強め。


「うちの部、LINEグループでやり取りしてるんですけどっ。灯さん、アカウント持ってます?」

「も……持ってる! 持ってる持ってる!」

「では、繋がってもらってもいいですか?」

「もちろんもちろんっ!」


 あ…………。

 あっぶねええぇええっ!

 LINE交換するの、すっかり忘れてた!

 夕べあれだけ後悔したのにっ!

 蔭山さんから言ってもらえなかったら、そのまま帰って気づいて、ベッドで枕濡らしてるとこだった!

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