02-07:ポッキーゲーム(サラダプリッツ使用)

「等高線はぁ、同じ高さの一帯を示す線で~。ピークはぁ、その一帯の頂点のことですね~」


 部長さんが人差し指立てて、それをメトロノームのように振りながらニコニコ説明。

 トレッキング新規勢に説明するのが、とっても楽しいって感じ。


「頂点……。『怒りがピークに達した』とかの、あのピークPEAKですか?」

「そうです~! でも登山ではぁ、単純に頂上を指したりぃ、特定のエリアで一番高いところを言ったりもしますからぁ、ちょっと注意です~」

「……なるほど」


 なるほど、わからん。

 まぁあたしは実践派だから、専門用語は体で覚える!

 初心者のあたしが注目すべきは……、そしてしょく

 KAWAIIカワイイスポーツウェアで蔭山さんとキャッキャウフフしてぇ、お弁当やおやつの交換してぇ……。

 でゅふふふふ…………ふ?

 あれ、このプリントの注意事項って……。


「……あの、部長さん」

「はい。なんでしょ~?」

「プリント1枚目の注意事項、服装の説明ないんです……けど?」

「服装なら~、これですね~」


 部長さん、立ててた人差し指を、自分の胸の谷間へツンツン。

 うちのジャージー、体のラインが出にくい作りだけれど、それでも結構な谷間をお持ちで……。

 ……じゃなくって。

 まさか、まさかまさか……。


「ジャ……ジャージー姿で、ですかっ!?」

「は~い♪ まずぅ、専用のユニフォーム作る部費もないんですけど~。学校用のジャージーって丈夫に作ってありますしぃ、危険な場所へも基本入りませんからぁ、これで十分なんですよぉ?」

「家からジャージー……ですか?」

「は~い♪ プリントに書いているとおりぃ、現地集合、現地解散なので~。部室には寄りませんね~」


 い……いやすぎるっ!

 緑に白いラインが入っただけの可愛げ皆無なジャージーで家を出るなんてっ!

 あたし、遠足のときのジャージー登校もイヤな人なのにぃ!

 だけど部長さんはニコニコ笑顔で不満なさそうだし、蔭山さんもあたしに同調してくれないのを見るに、同じスタンス。

 でもももも、ジャージー姿で休日に外出……ジャージー姿で蔭山さんと自撮り……いやああぁ!

 ……はっ!

 そ、そうだっ!

 こういうときのマイ・ティーチャー!


「利賀先生っ」

「ああん? ぼりぼり……」


 すっ……とスライドする足運びで利賀先生のわきへ移動し、赤い宝石をはめ込んだイヤリングしてる耳へ、中腰で耳打ち。


「……きのう職員室で、うちの学校は自由な校風だって、言いましたよね?」

「言ったな」

「じゃあ部活のときも、自前のスポーツウェアでいいんじゃないですか? ユニフォーム作ってくださいとは言いませんから、せめて服装は自由に!」

「ぼりぼり……自由ゆえの不自由」

「はい?」


 先生がタイピングの手を止めて、あたしを向く。

 咥えてるポッキーの先端が、あたしの鼻先へ。

 なるほど、さっきの「ぼりぼり」は、KAWAIIカワイイ教え子の顔を突かないよう長さ調節してたんだ。

 この教師……できる!


「例えば制服を廃止したらば。好きな格好で登校できる代わりに、ファッション格差やら家の経済状況やら、透けて見えてくるだろ?」

「それはまぁ……ありますね」

「だったら制服や体操着のほうが気楽。統一規格があったほうが自由というケースも、社会にはある。その分うちは制服もジェンダーレスで、髪型も罰則を設けていないわけだ……ぼりぼり」


 ポッキーの先端が鼻から遠ざかってく。

 説明は終わりだと言わんばかりに。

 でもここは……もうちょい食い下がる!

 あたしから顔を近づけて、ポッキーゲームの間合いにっ!

 はむっ……!

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