B面/ある御隠居の話
あの学校にあった池の話か。ああ、知っておるとも。……いや、見た事はない。
そんなこじんまりとした校舎の横に、『
広さは九平方メートル程度、四方を林に囲まれた薄暗い草地だ。そこには幾つか石碑があり、まるで墓のようだった。石碑には文字が刻まれていたが、どれも摩耗して読めなかった。
この太宰塚なる場所、実は太宰治や大宰府などとは一切関係がない。
では何故、太宰塚と呼ばれているのかというと、元々は『
この塚の隣にあった池こそが
兎角、あの地は死に纏わる場所だったのだ。
さて、この太宰塚、そんなおどろおどろしい怪談があっても学校の敷地内だ。となれば、手入れをしない訳にはいくまい。手入れは生徒達による当番制で行われ、主に雑草を抜いたり、石碑を拭いたりしていた。
夕暮れ時の太宰塚はいつにも増して不気味だった。石碑が血のように赤い夕陽に染められ、風がびゅうびゅうと吹き荒れていた。
早く終わらせよう、と
石碑に付着した泥を手早く拭き、雑草を抜く。早く早く日が沈む前にと心の中で念じながら
背後からガサリという音が聞こえた。
風で草が揺れたのとは違う、質量の伴う音。小動物か何かが茂みを揺らした時の音だ。周囲の暗さもあって、おっかなびっくり振り返ってみたが、何もいない。犬や猫でも通り過ぎたのだろうと思って視線を前に戻した。
細く短い手足はしわだらけ。顔は猿のよう。目は開いておらず、口は小さかった。一目で水子である事が分かる弱々しい姿だった。しかし、だからこそ
当然だが、先刻までそこには誰もいなかった。その水子は突然に現れたのだ。
驚いた
パニックに陥った
そして気付いた時には……
どうやらあの後、
傷は全身に及んでいて、特に腹の傷が酷かった。まるで獣がその爪牙で
後に水子を見なかったかと教師に尋ねたが、何も見なかったと返された。
あの異形共が本当に水子であるのならば、恐らくは胎内に帰ろうとしていたのだろう。生まれる前に死んだ子の無念など、「もう一度生まれ直す」か「生みの親を呪う」以外にはあるまい。もし
しかし、
水子ならば爪は
それでも
江戸時代の後期まであの場所には屋敷があった。大地震によって屋敷は倒壊し、学校が建てられるまでは無人の地となっていたが。
屋敷の一族は周辺一帯の祭事を司っており、近くには無縁塚があった。無縁塚というのは災害や行き倒れなどの理由で、身元不明の死者を供養する為に建てられた塚の事だ。
大量の死者が眠る場所なら一人二人増えた所で構うまいと、遊女達はこぞってここに水子を埋めたのだ。
そんな死臭に塗れた場所から這い出てきた怪異が、どうして他の怨念も宿していないと言えるのだろうか。
水子。心中。無縁塚。古くより死者を……それも無念の内に死んだ者共を呑み込んできた場所。果たしてこれは偶然なのだろうか。もし偶然ではなく必然だとしたら、屋敷の者共は自分達の足元に一体何を隠していたのか。
今やあの木造校舎は取り壊され、鉄筋コンクリートに建て替えられた。
しかし、あの塚はまだ校舎裏にひっそりと残されていると聞いている。
古池や かばね呼び込む 水の音 ナイカナ・S・ガシャンナ @Nycana
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