『現代日本で偉人を目指した少女が、異世界で偉人になるべく頑張る話』
トアニ
第一話 プロローグ
小さい頃、偉人の伝記をよく読んでいた。
エジソンやニュートン、アレキサンダー大王にアインシュタイン、偉大な発明をした人間や、世界に覇を唱えた指導者の人生を追うのが楽しかった。
そしていつしかこう思うようになった。
「こいつらのように、歴史に名を残してみたい」と。
そのために必要なのはおそらく2つに1つで、1個目はめちゃくちゃ悪いことをすること。戦争や虐殺、おおよそ考えつく全ての悪いことを網羅すれば、歴史に名を残せるだろう。
2個目は反対にめちゃくちゃ良いことをすること。人を助けたり、何か画期的な発明をしたり、新しいものやことを見つけたり。これでも歴史に名は残せる。
前者は、なんとなく酷いことな気がしたし、あんまり人を悲しませるのが好きじゃなかったのでやめておくことにした。第一こっちだと伝記を作って貰えるかは怪しい。
だから目指すは後者だと考えた。
手っ取り早いのは、伝記で読んだノーベルという人が作った賞を取ってしまうことだ。受賞者がニュースで取り上げられるぐらいだし、そうすればきっとすごい人として歴史に名を残せるだろう。
だからとにかく研究をした。植物から直接電気を取り出せないかとか、ダイタランシー反応(衝撃を与えると液体が固くなる現象)で防弾チョッキを作れないかとか、とにかく色々やった。その甲斐あって賞を取ったりもしたが、しかしこんなものでは足りない。私はもっとすごい賞を取りたいのだ。
小学校の卒業式では「いつかノーベル賞を取る」と言った。逃げ道を作ったら負けだと思ったからだ。まだまだ未熟だが、自由研究で既に賞を取ってるのだ。このまま行けば若い内に取れるのではなんて夢想した。
だが中学の後半に問題が発生した。私の親が経営する企業が業績不振から夜逃げの可能性すら出てきたのだ。
もはや研究どころではなく、中学を出たら働きに出ることになるやもしれない。もちろん中卒の偉人なんて山ほど居るが、しかし家族と離れるのは嫌だ。何とかならないのかと考えている時、あるニュースが流れた。
それは「衆議院解散」というものだった。公民の授業でなんとなく習った覚えがある。これは確か議員を入れ替えるためにやるんだったか。
どうやら「なんとかのミクス」とかいう経済政策?を公約に掲げる野党と、これまで数年間やってきた与党との戦いらしい。そのニュースによると、その「なんとかのミクス」とやらをすると企業の業績が伸びるらしい。どういう原理でだよと突っ込んだが、もしそうなら親の会社も助かるんだろうか……。
まあないだろと思いつつ、淡い期待を抱えていた。
後日その野党の方が勝ったというニュースを見た。もしやとは思ったが、政治家なんて寝てばっかりの大したことのない連中だ。まさか助かるはずがないとテレビの電源を消した。
その数ヶ月後、いきなり親が私を寿司に連れてきた。もしや無理心中かと疑ったが、全然悲壮感がない。もはやこれまでと吹っ切れてしまったのかと思ったら、「おい百合、安心しろ、もう俺らの会社は大丈夫だ、高校、大学とお前の夢を応援してやれるんだ」と言ってきた。
なんでと聞くと「新しい注文が殺到してな!いやーこれもあそこが与党になってくれたおかげさ!」と答えてきた。
ちょっとネットで調べてみたら、こういう例が多発してるらしい。このままなら倒産してたはずという会社があそこが与党になって助かったというのは、うちの話だけではないようだ。
つまりこれは「なんとかのミクス」とやらのおかげということだろうか?経済政策とやらはここまで大きな影響を与えるというのか。政治家は寝てるだけと思ってたのに、ちゃんと仕事をすればこれだけの効果を産むとは。これからも親の会社を守るためにも、経済についてよく学びたいと考えるようになった。
しかもお誂え向きに経済学はノーベル賞の対象ではないか。
こうなったら経済学を徹底的に学んで、ノーベル賞受賞のため頑張ろうと考えた。
そのためにとにかく経済学の知識を集めようと、入門書からみっちりとやった。大学ももちろん進学したのは経済学部だ。別に勉強漬けという訳でもなく、サークルでは色々やったが、ここでは割愛する。
とにかく私は経済学の研究に明け暮れていた。
そして何か新しい理論の影が見えてきた辺りで、
プツンと何かが切れるような音を聞いて、
私は命を落とした。
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