第14話 鬼よりも質の悪い鬼
──
序列3位の種族。剣神、魔法神はどちらも鬼族から輩出されている。それほどに戦闘能力に長けた種族である。群れることはなく、常に一匹で動く。
しかし、そんな
それはなぜか。単純である。
これを踏まえ、万一にも滅ぶことを恐れた両種族は不可侵条約を結んだ。
だがその1000年後、
あろうことかその危機は、たった1匹の
***
(ヒュンッ)
俺は風を切りながら進化して戻ってきた。
心なしか、少し自分に自信がついた気がする。
血の生臭い臭いはまだ部屋に残っているが、今の俺なら耐えられる。
とはいえ、血とともに見える死体…流石にこれは精神的に堪える。吐き気を催す前にここからは離れよう。
トラップ部屋は案外広いが、もう特にすることもないだろう。
俺は反転した壁の前まで歩き、思いっきり壁を押した。
(ギギィ)
重そうな音をたて、扉はゆっくりと開いた。
外に出て真っ先に目に入ったのは2匹の大蛇…の死体。運がなかったらこいつらにも負けてただろう。
…マッシードもそうだが、こいつらの死には特に悲しくもならないんだよな。やっぱ、元人間だったからなんかね。
そういや今思ったけど、全然腹減らねぇな。魔王の時は普通に食欲もあったのに。
たぶん何も食べなくても生きていけるってことだろうな。
あ、もしかしてこの蛇共も加工できるんじゃね?ちょっとやってみるか。
(
思った通りだ。
脳内に加工可能な品の一覧が出てきた。
ふむふむ、なるほど。
俺は壁に埋まっている大蛇をなんとか引きずりだし、一段落ついたところで加工を始めた。
数分後、頭、胸、腹それぞれの防具を作り終えた。
以外と細かい作業を要し、大抵の部位を使い切ってしまった。
どれだけの耐性なのかは使ってみないとわからないが、そんなことはどうでもいい。
なんと、加工する際に装飾ができたのだ!つまり、G感の低下が見込める!
まぁ自分でも自分自身を見たことはないからわからんが、前のゾルトさんの反応を見るに、相当キモいんだろう。
だからこそ、装飾は最高なんだ。まず、Gらしいテカテカとした黒は見えなくなるだろう。それに元人間としてお洒落は大事だ。
とにもかくにも、かなり良い物が作れた。
…そろそろ旅立つか。
次の目標は…忘れるまでもない。ゾルトさんを殺した
まぁ、とりあえず迷宮内を進むしかない。
俺はしっかり迷宮の壁を右伝いに歩いている。探索の基本だ。
***
1時間ほど歩いただろうか。
よくわからないが、なんか違和感があるんだよな。
まぁ、わからないものを気にしてもしょうがない。
俺は深く考えず、上の階層への道を探そうと…したが、そうもいかなかったようだ。
(クチャッ、ブチュッ)
角を曲がり、目の前に現れたこの光景はなんと説明すればいいのだろうか。
緑色の気色悪い魔物たちが、耳障りな咀嚼音を出しながら、餌に貪りついている。
…違和感の正体もわかった。あまりに何もいないから気になってたんだ。こいつらが喰ったんだ。
単純に下衆なだけではなく、生態系まで乱すのか、こいつらは。
「よぉ、悪食の屑共。俺の名はフーガ。貴様らに殺された恩人の敵を討つべく、今から殲滅させていただく。せいぜい刻一刻と迫る死を恐れ、苦しむがいい。」
「…あ?」
そしてにやりと、格下の雑魚を嘲けるように笑った。
「その笑顔は…布告に応じたと受け取らせてもらう。」
俺はそう言いながら短剣を取り出した。
こいつら…舐めてんのか?
まぁいい。痛い目を見りゃーわかるだろ。
(コンッ)
俺は思いっきり跳び、一気に間合いを詰めた。
しかし、
さらに周りのやつらが俺へ…ではなく、俺のバッグへと手をかけ、引き裂いた。
大量の小テが床へ散らばる。
俺自身は攻撃されなかったので、助かった。
こいつらまさか、俺がバッグから小テを取り出したのを見てアイテムを使えなくしようと…?
案外狡猾なやつらだな。
一応短剣はあるが…遠距離で戦うのはキツそうだ。
「おまえば、
なんかボスっぽいデカい
いちいち濁点つけんなよ。めんどくせぇ。
「あぁ、御名答だ。」
「なるぼど。ならばでいあんがある。」
「ふむ。なんだ?」
「われわれのながまにならないが?いじょぐじゅうはぼじょうずるぞ。」
「仲間になって欲しい理由は?」
「ぞれば、ながまになっでがらおじえる。」
…何か裏がある気もするが、のってやるか。
俺は短剣を構え近づく。
「ごれがらながまになるんだ。ぶぎをずでだらどうだ?」
武器を捨てろ、か。
やはりこれは罠の可能性が高い。
だが、この数を正面突破は不可能だ。罠でもしゃーないよな。
(ガシャンッ)
短剣を放り捨て、ボスゴブの前まで歩く。
他のやつらは道を開けている。なんか気分が良い。優越感ってやつだろう。
「ざで、ながまになっでぼじいりゆうだが…」
「うむ。何だ?」
「おまえを…殺すためだよ!」
へ?
なんか、急に普通に喋りだした…と、そんなことを考えている場合じゃない。
四方八方から血で汚れた手が伸びてくる。
やばい。
ボスゴブが頭と胸の間を掴んできた。このままじゃ喉をかき切られて終わりだ。
どうする、どうすればどうしたらどうにかしなきゃ…あ!
思いついた。
俺には進化で得た物があるはずだ。
それは…
「微毒だぁ!」
急に叫んだ虫に驚き、思わずボスゴブは手を離す。
その瞬間、俺の口から毒が噴出され、ボスゴブの目に直撃した。
毒の反動は何か気持ちいい。1人でごそごそした後みたいな感じだ。これなら何発でもいける。
突然の出来事と、あまりの苦痛にボスゴブは悶絶の声を上げ、幼い餓鬼のように泣きじゃくる。とても哀れな姿だ。
周りの
俺はボスゴブを踏みつけながら、自分を取り囲む下衆共を見渡し、ゆっくりと、自信に溢れた声でこう言った。
「さぁ、蹂躙の始まりだ。」
〈14話 鬼よりも質の悪い鬼 完〉
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