第6話

 病院前にミリナが乗っている車が到着する。

 運転席から黒服の男が出て、後部座席へと向かいドアを開けた。



「どうぞ」


「ありがとう」



 後部座席から騎士とミリナが出て、病院内へと走って駆け込むミリナを追って、同乗していた騎士も慌てて追って行く。



「ミリナ様!お待ちください!」



 騎士の声が聞こえていないかのように、ミリナは一目散にシェラークの元へと向かった。

 受付でシェラークのいる部屋番号を聞いたミリナと騎士は、騎士が先導する形となって部屋へと向かう。



「ミリナ様、急いでシェラークさんの元へ向かいたい気持ちは分かりますが、病院内で走るのは他の患者さんへの迷惑にもなりますので、落ち着きましょう」


「その通りね。申し訳ないわ。あなたの手も煩わせることにもなって」


「滅相もございません!私こそ生意気なことを言っているのを承知の上で進言させていただいたのですが、受け入れて下さり感謝しかありません」


「正しいことを言っていると思ったら、私だって受け入れるわ」



 シェラークの病室へと向かう道中、他の患者だけでなく病院内の職員がミリナとすれ違う際に、驚きの顔を浮かべていた。

 一国の王女を間近で見る機会がないのはもちろん、ミリナの美貌は近くで見ることでより一層の美しさを際立たせており、見るものの心を打ち抜く。

 病院内のありとあらゆる者が、すれ違った後のミリナの姿を全員が目で追っていた。





 ミリナが病室に入る。

 そこには1台のみのベットがある個室の部屋であり、ベットに横たわっていたのはシュラークだった。



「シュラーク!大丈夫!?」

 

「はい、何とか命だけは助かりました…」

 

 全身の至る所を包帯で巻かれ、呼吸器を付けているシュラークの姿を見て、ただ事ではない何かが起きて、巻き込まれたであろうことは誰が見ても一目瞭然だった。



「容態が優れないところ申し訳ないのだけれど、何があったのか詳しく話してくれないかしら?」



 シュラークを安静にしてあげたい気持ちは充分過ぎるほどあるミリナだが、この事件を一刻も早く解決しない限り、この国の安泰は保たれない確信があるミリナは申し訳なさそうにシュラークへお願いする。



「もちろんです。僕が見たものを全てお話します」



 体力がまだ回復していないのか、弱々しい声で話し始めた。

 コリーが殺されたこと、下水道の奥地で何かしら工事のようなものをやっていた現場、そしてボルテルのこと。

 シュラークは自分が経験した全てを話した。

 全てを聞き終え、ミリナに付いていた騎士は信じ難いという表情を浮かべた。



「アルヴァー騎士団を、ましてはシェラークさんをここまで追い詰める組織とは…」


「君は騎士見習いの子かい?」


「はい!アルヴァー騎士団への入団に向けて、日々鍛錬しています」


「アルヴァー騎士団は強い。でも決して最強というわかではないからね。そのことを今回身を持って体感したよ」


「そんな…」



 否定したい気持ちがあった騎士見習いは、実際に目の前で大怪我をしているシェラークを見て、シェラークの言っていることが実際の現実なのだということを打ち付けられ、絶望に近い感情が支配した。

 全てを聞き終えたミリナは立ち上がる。



「急いで戻って捜索隊を派遣するわ。ボルテルについて徹底的に調べ上げて、居所を掴む。向こうは数も多いから、ボルテルがいつ動き出すかも分からないから、こちらもそれ相応の準備を急いでしましょう」



「ミリナ様…」



 病室を後にしようとするミリナにシェラークが呼び掛け、振り向くミリナ。



「この国に、嵐が起こる気がします…。なにかとてつもない、想像以上の災が…」


 シュラークは言い合えぬうちに体力が尽きたのか、そのまま眠ってしまった。ミリナは不安の表情になり病室を出た。





「ムーア様、よろしいでしょうか?」



 ムーアの座る玉座の前で、ターラは片膝をつきながらムーアへと話しかける。


「アルヴァー騎士団が全滅し、ボルテルの元へ案内した少年も殺されたようです」


 ムーアはじっとターラを見つめたまま、微動だにしない。

 見る人が見れば、怒っているようにも見えるし、話の内容を聞いていないようにも見える。

 そんな様子を意に返さないでターラは続けて報告する。


「アルヴァー騎士団で生存確認できたのは1名のみ、他は死体として死亡が確認されたり、遺体が発見できず生死不明の者がいたりと混乱しているようです」


「生き残った1人の名は?」


 ターラの報告を聞いたムーアは逆に質問をする。


「シュラークという者だそうです」


「そうか」


 唯一生き残った者の名前を聞いたシュラークはニヤリとほくそ笑む。


「気が変わった。フラタニティへ向かう」

 

「かしこまりました」


 アルヴァー騎士団とボルテルの行く末を静観するはずが一転、ムーアがフラタニティへ向かうことにしたという話はセリーナの耳にも早々に入り、セリーナはムーアの元へ向かった。

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