天使と悪魔に、恋をした。

初美陽一@10月18日に書籍発売です

第1話 悪魔な彼女と、友達になった。

 エルフ、ドワーフ、コボルト――多様な種族の通う学園では、〝ただの人間〟である僕は、珍しい。

 もちろん魔力なんて持たない、平凡を自負する十六歳の現代日本人。デミ・ヒューマンや魔物が当然に存在する世の中で、文化交流のためだとかで交換留学された結果が、今の現状である。


 クラスメイトにも遠慮はあるのだろう、基本的には一定の距離を置いて接されて――ほとんど孤立している、浮いた存在なのが、僕だった。


 だからこそ、だろうか。僕には気になるクラスメイトが、一人いる。

 それは―――


『ちょっと、陰気臭い顔をしないでくださる――そんな顔をされては、周りまで暗くなってしまうでしょう?』


 その声は、僕に……ではなく、離れた場所から聞こえてきた。

 声の主は、純白の羽を持つ使――美貌の生徒会役員として有名な、カエラという女生徒だ。


 一方、そんなカエラに厳しい言葉をぶつけられているのは。


 を背の左側に持ち―――と呼ばれる、気の弱そうな女生徒。

 シルフェが―――俯き、言われるがままで耐えていた。


「……ふんっ、いつもいつも辛気臭いわね。まあそんな、呪われているなんて噂の黒い羽なんて持っていたら、仕方ないのかしら」


「っ……そ、その、ごめんなさ……」


「はあ、これだけ言われて、言い返しもせず謝るなんて……呪われているのは、その暗い性格じゃなくて? せめて下ばかり向かず、上を見れば良いものを。……もう、いいですわ」


 言いたいだけ言って、踵を返して自分の席に戻る、天使・カエラ。


 一方、俯いて軽く肩を震わせる――もしかしたら泣いているのかもしれない、悪魔のシルフェだが、誰も慰めようとはしない。


 人気の高い種族である天使、対照的に忌まわしいとされる悪魔は軽視されがち――いや、いっそ虐げられている、とさえ言える。デミ・ヒューマンや魔物が当然の世界でさえ、黒い翼から落ちる羽は呪われており、近づくことさえいとわれるほどだ。


 片翼だけではなく、髪も漆黒のロングストレートで、顔を隠そうとしている。

 それはまるで、少しでも人目を避けるよう、涙を隠そうとしているようで――


 だからこそ。

 俯いて、ひとりぼっちでいる彼女が、途方もなく、悲しそうに見えて。


〝ただの人間〟で、同じく孤立している僕は―――




「シルフェさん―――あの、よければ僕と、友達になってくれませんか?」


「――――――――えっ?」




 驚いたように、勢いよく顔を上げた彼女の、長い長い前髪の隙間から。

 涙が滲んだ、けれど、それはそれは美しい――金色の円らな瞳が、輝いていた――

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