魔王に捕らわれし女勇者、完堕ちしてしまう【ぜい肉シリーズ番外編】

月詠 透音(つくよみ とーね)

魔王に捕らわれし女勇者、完堕ちしてしまう【ぜい肉シリーズ番外編】

 女勇者シラヌイは魔王城の玉座の間に堂々と立っていた。

「おいこら魔王グリップ! 貴様の悪行もここまでだ!」


 魔王グリップはニヤリと笑い、指をポキポキ鳴らす。

「フハハハハ! たった一人で乗り込んでくるとは、無謀なヤツよ」


*数秒後


 無残にも、尻を半ぶん出して這いつくばる女勇者シラヌイの姿があった。

 シラヌイは凛とした表情で剣を握りしめ、叫ぶ。

「くっ……殺せ!」


 その言葉に魔王は悪い笑みを浮かべた。

 魅力的な半尻に目を奪われている。


「殺す? ふむ、それもいいが……貴様、その美しい体。

 お尻におっぱい。

 殺すには惜しいではないか? たっぷりと可愛がってやる」


 シラヌイはギリっと歯を食いしばる。

「この変態!」


 魔王グリップはニヤリと笑い、忠実な部下のトーマスというバンパイアを呼びつけた。

「トーマスよ、この女勇者を監禁せよ。苦しめてやれ!そうだな……快適な牢を用意してやるのだ。ヒッヒッヒ」


 当然ながら「快適な牢」とは「快適とは程遠い牢」という意味であり、言葉遊びのようなものだった。しかし、真面目な部下であるトーマスは文字通り受け取ってしまった。


「魔王様のご命令は絶対……しかし、快適な牢とは……なぜこんなことを……?」


 疑問に思いつつも、忠実な彼は魔王軍の財政がひっ迫しているのにも関わらず、必死に予算をかき集めた。

 

結果、捕らわれの女勇者シラヌイのための牢は以下のようになった。

・ふかふかのベッド

・高級ソファ

・豪華な絨毯

・エアコンと空気清浄機を完備

・ドリンクバー完備(コーラ、コーヒー、ジュース、紅茶、その他)

・ネット配信無料契約

・ポテチ&カップ麺食べ放題

・コミック2,000冊完備

・カップ酒箱買い

・ウーバーイーツ利用し放題

・スマホを契約


 愚かなことに魔王城随一の快適空間が完成してしまった。

 そして、シラヌイはそこに放り込まれた。


「……は? 何よこれ」

 暗く冷たい、そんな厳しい環境の牢獄に捕らわれると覚悟を決めていたにもかかわらず、拍子抜けしてしまう。

「いや、これはきっと魔族の罠だ。私は勇者……私は勇者……」


 そう言いながら、シラヌイはふかふかのソファに座った。

「うわ……これ、雲の上みたい……」


 三十分後──

「……ちょっと休憩するだけ。ほんの少し喉が渇いたわ……あ、ドリンクバーだ」


 一時間後──

「くっ……くそ……この漫画、面白すぎる……!」


 半日後──

「韓国ドラマ見ながら、ポテチとコーラって最高の組み合わせでは?」


 数日後──

「さて、今日はウーバーで何を頼もうかしら……えっとカタログはどこだっけ」


 こうして、シラヌイの勇者としての矜持は、よくわからないままに発生した『快適な牢』の誘惑にたった数日で屈した。



 一方、魔王グリップはシラヌイを辱めるために牢屋へ行こうとするが、なぜかその都度、用件が発生し行く手を阻まれる。

「魔王様、人間どもがスライムをいじめています」

「魔王様、近隣のオーク族が税金を滞納して逃げました!」

「魔王様、お母様が腰痛で寝込まれました!」

「魔王様、ドラゴンクエスト・リメイク版が発売されました!」

「魔王様、大谷選手が記録を達成しました!」

「魔王様、韓国ドラマが最終回です!」

「魔王様、年末です」


「え~い、忙しい! なんだこのクソ忙しさは!!!」

 次から次へと雑務が発生し、なかなか牢屋へ行けない。


 女勇者シラヌイを捕えてついには数十日が経過してしまっていた。


「よ~やく用事が片付いた! (*´Д`)はあはあ、頑張ったわ俺……自分にご褒美を与えねば」


 ようやく時間を作り、「ヒッヒッヒ、ついに女勇者を辱めてやるぞ!」といやらしい笑みを浮かべながら牢に向かった魔王は、期待をふくらませて牢獄の扉を開く。


トントン!

「入るぞ、シラヌイ~」

 

 期待に胸をふくらませていた魔王グリップは、そこでとんでもない光景を目にすることになる。


 ふかふかのソファに座り、ポテチをつまみながら大股開きでスマホ動画を見ているシラヌイ。

 しかも、タンクトップにうさぎパンツ一丁という怠惰な姿で、お腹がポッコリと出ている。


「な!? 魔王グリップ!」

 魔王の出現に慌てて言い訳をするシラヌイ。

「ち、違うんだ!これは、お前を倒すために……まずは休養していたのだ!明日からお前を倒すために鍛える!!

 それに、来るんだったらLINEで連絡しとけよ!」


「ぐっ、勇者よ……なんだそのなさけない腹は……そして、この部屋。魔王軍の財政が破綻しかけていたのは、お前のせいだったのか!」

 魔王は笑いと怒りをこらえきれず、ついに白目を剥いてその場で気絶した。



シラヌイは何とも言えない気分になったが、内心はどうでも良かった。

ただ、どこかでTVカメラがまわっているかもしれないと(つまりドッキリではないか?)警戒し、表面上は気を引き締めた。


「お、おのれ……っ! 何という屈辱……!」

とりあえず、そう叫ぶと気絶している魔王を牢から蹴り出し扉をしめた。


しかし、シラヌイは快適な牢にもどると、ある事を思い出す。

「あ、明日は韓国ドラマのまとめ配信の日だったわ、鍛えなおすのは……明後日からにしよう! 

 魔王グリップ、あなたを倒すのは私よ!(……とでも言っておくか)」

 

こうして、魔王グリップと女勇者シラヌイの奇妙な対決は続くのだった。






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