7話 『やってこないクラスメイト』
「……?」
いつもなら教室に入ったら聞こえてくるはずの気の抜けた挨拶が来なくて俺は肩透かしを食らう
でもそれ以上に俺を襲った感情は困惑と安堵
教室の扉の前で立ち尽くす俺に後ろにいる田中やクラスメイトたちの視線が突き刺さる
ゆっくりと油の切れたブリキの人形のように瑠璃の席を見てみるとそこには誰にもいなかった
「晟?どうしたの?本当に大丈夫……?」
「瑠璃は、瑠璃はいないのか」
「瑠璃ちゃん?瑠璃ちゃんなら今日はお休みだって」
「まぁ昨日あんなこと起きたんだし休んでも仕方ないよね〜。瑠璃ちゃん以外も休んでる人ちょくちょくいるし」
「そ、うか……」
「……」
俺のガッカリしたような、安堵したような複雑な表情に田中が怪訝そうな顔をしていたことに気づく余裕は、この時の俺にはなかった
その日1日、俺はどこか上の空だった気がする
授業にも集中できず、休み時間は誰とどんな内容の会話をしたのかすら覚えていない
けれど1日経つ頃には俺も落ち着いて、「明日は瑠璃と話をしよう」と思った
けれど、瑠璃は次の日も、またその次の日も、またまたその次の日も学校に来ることはなかった
────────────────
「はぁ〜。瑠璃のやつなんで学校に来ないんだよ」
瑠璃が学校に来なくなってからかれこれ5日が経とうとしていた
例の商店街の事件をきっかけに学校を休んでいたやつも3日経つ頃にはとっくに学校に来るようになったというのに、瑠璃だけは未だに学校に来ることはない
俺は自室のベットで大の字に寝転び、「あ"ぁ〜」と意味の無い言葉を出しながらぼっーと天井を見つめる
「おい、うるせぇよ。さっきからなんだ鬱陶しい」
「お前さぁ、一々悪態つかなきゃ死ぬの?」
「晟お兄ちゃんどうしたの〜?お腹痛い?」
「ん〜〜〜!!!心配してくれるの翡翠ちゃん!!!お腹は痛くないから大丈夫だよ!」
「うるせぇつってんだろ。……で、どうしたんだよ」
「え!?もしかして焔心配してくれてんの!?槍でも降る!?」
「あ"ぁ"!?気色悪ぃな殺すぞ!」
「物騒!!!」
俺の部屋で勝手に俺の漫画を読んでいた焔が本気で鬱陶しそうにしていて、翡翠ちゃんは心配そうに上から俺の顔を覗き込んできた
相変わらずの悪態に嫌気がさしたが、どうやら焔は心配してくれてたようで(当社比)ぶっきらぼうに俺がため息をついてた理由を聞いてきた
それに驚いて少し騒いだらすぐさま殺害予告されたがこれはご愛敬というものだろう
「それがさぁ、俺に商店街の事件のことを事前に忠告してきた奴がいたんだよ。そいつになんで商店街で起きることを知ってたのか聞こうと思ったのに、そいつ学校に来ねぇんだよ」
「そうなんだ。晟お兄ちゃん大変だね!」
「そうなんだよ〜!!!翡翠ちゃんは俺の苦労わかってくれるんだな〜!!」
「おい翡翠に何ベタベタしてやがる死にてぇのか」
「相変わらずのシスコンだなお前!!!」
焔のいつものシスコン芸に俺はゲンナリするが焔は何かを考え込むようにして押し黙る
いつもならここで軽い取っ組み合いになるのだがいつもと違う様子に俺は思わず焔と同じように黙り込んでしまう
翡翠ちゃんも俺たちにつられ黙るとこの部屋は数秒間の静寂に包み込まれた
「……そいつ、宝石獣だったりしねぇか」
「は?宝石獣?なんで」
「普通の人間に未来の予言なんてできるはずがねぇだろ。宝石獣の特殊能力としか思えねぇ」
「瑠璃が?んなわけねぇだろ。今までそんなに素振りなかったし瑠璃が宝石獣なわけが……」
「お前、俺が前に話したことを忘れたのか。宝石獣は政府に狙われてる種族だぞ。宝石獣は基本的に隠れ住んでるんだ」
「隠れ住むって……」
「政府にバレないように己が宝石獣であることを隠し、普通の人間のように生活をする。それが宝石獣の生き方だ」
「だからその瑠璃って女が宝石獣である可能性は0とは言いきれねぇよ」
「そ、んなわけ!な……い…」
「その様子だと心当たりがあるみてぇだな」
俺は否定しようとして、黙った
宝石獣を見分ける方法
"身体能力が高く、人よりも優れている容姿"
その特徴は、瑠璃によく当てはまっていた
あの忠告、瑠璃の特徴から瑠璃が宝石獣じゃないと否定することは宝石獣に関わってしまった俺には出来ない
「ま、その女が本当に宝石獣かどうかはわかんねぇけどな」
「翡翠、寝るぞ」
「はーい!晟お兄ちゃん、おやすみなさい!」
「あ、ああ。おやすみ……」
焔と翡翠はそのまま自室に戻り眠ったようだった
瑠璃が宝石獣である可能性、俺だって考えなかったわけじゃない
けどそんなわけないと思って……
いや違う。俺がそうあって欲しくないと思い込みたかっただけだ
宝石獣は政府から狙われ、その力は戦争に使われていると焔から聞いた
そんな過酷な人生を瑠璃に歩んで欲しくないから、俺は"瑠璃が宝石獣じゃない"
そう思い込みたかった
本人から話を聞いて、安心したかった
けれど、瑠璃はいつまで経っても来ない
「瑠璃、俺を……安心させてくれよ……」
そう願っても叶うことはなかった
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