第39話 平日なのに休めるプレミアム感

 あたしは桃亜ももあといっしょに、学校が始まっている時間に目を覚ます。


 ルーティン的に、ホントはやってはいけないことだ。


 しかし、今日くらいはやってみる。


「いすゞさん、おはようございます。この背徳感は、クセになりそうです」


「おお、おはよう」

 

 桃亜が、あたしの隣でまだアクビをしていた。ベッドから、出られないようだ。


「まったくだ。ただ遅めに起きただけなのに、こんなに罪悪感溢れる気分になるとは」


 こんな気分になるのは、小中学の創立記念日以来だな。あのときは、日付が変わるまでゲームしていたっけ。


 とはいえ、いつまでも寝ていては、せっかくの時間がもったいない。

 充実した一日にするぞ。

  

 平日の朝から、学校以外の場所へ出かける。


「朝ファーストフードって、一度やってみたかったんだよな」


 駅前のファーストフードで、朝食にした。朝に駅なんて、めったに行かない。


「こんなおいしいものを、サラリーマンの方々は朝から食べているんですね」


 カリッカリでフワッフワのハッシュドポテトを、桃亜と食う。


「うま! これは、昼でも頼みたいって人も出てくるな」


 それだけ、すばらしいうまさだ。


 いやあ、ハッシュドポテトだけで胸がいっぱいになる。

 最高の朝を迎えた。


「あとわたし、立ち食いそばって食べたことないんですよ」


「わかった。行ってみよう」


 改札の横にある立ち食いそば屋に、並ぶ。

 

 券売機で、かけそばとコロッケを買う。


「コロッケとソバの相性って、すごくいいそうですね」


「ベストマッチなんだってよ」


 さっそく、コロッケそばをいただく。


「うまい。ホフホフ」


 さっきポテトものを食べたところだってのに、スルスルと胃に入っていった。


 食感がベチャベチャになる気がしたが、それが逆にいい。ツユの濃さと、コロッケの素朴さが、見事にマッチしている。


 昨日はうどんで、今日はソバだけど、また違った味わいだ。

 同じ麺類で、ここまで変わるか。


「この脂ぎったオツユも、たまりませんね」


 器を持ち上げて、桃亜がダシを飲む。ゴキュ、と音が立った。


「これ、いいな。コロッケそばは、ハマりそうだ」


「おうちでも、やりましょう」


 インスタントのソバとコロッケだったら、よりジャンクさが増してうまくなるはずだ。絶対にやろう。


 なんだか、朝からすごくゼイタクなことをしている気分になった。


 ショッピングモールへ向かう。これもまた、平日のゼイタクだ。


 買い物中の主婦に混じって、JKふたりでウインドウショッピング。

 海外の雑貨屋とか、のぞいちゃうもんね。


「このポテチ、人気だそうですね」


 ポテチのように揚げたレンコンチップスの袋を、桃亜は買った。

 


「プリン屋さんの言っていたとおりですね」


 たしかに、モールは少し改装する店舗が増えた感じ。撤退し、閉店している店も多かった。


「お気に入りだったショップが、不動産屋とか法律事務所とかになると、さみしい気持ちになるな」


 モールが社会人向けの施設ばかりになると、学生の身では用事がなくなる気がしてしまう。

 不動産なんて、一生お世話にならない感じがするし。

 歳を取ると、必要になってくるんだろうけど。


「実用性が重要なのは、わかるのです。けれど、自由度が低い気がします。利を求めすぎていると言うか。モールでなくても、ビルでいいじゃないかと思えて」


「利益追求をするモール側の主張も、わからんではないんだよなあ」


 存続のための策だと言えば、そうなんだろうけど。


「フードコートも、店舗が短い間に様変わりしたな」


 以前は、見たことがない店に行くワクワクがあった。


 今は無難な、系列店の味が多い。ひとまず、枠は埋めましたという感じ。換算としていないだけ、マシかも。


「これはこれで、おいしいですね」


 値上げが広まって数ヶ月で、これかよと。

 

「うん。冒険したい気分だけどな」


 ラーメンをすすりながら、あたしたちはしみじみと考える。


 モールの中にある、映画館へ。

 

 学校をやっている時間に、映画を見る。

 これも、最高にいい時間の使い方じゃないか?



「外は結構、変わった店が出ていますね」


 キッチンカーが、回転焼きや団子を売っていた。


 回転焼きといえば屋台、ってイメージがあったけど。


「おお、抹茶あんですって。食べてみましょう」


「いいな」


 抹茶あんと、ほうじ茶ラテでデザートタイム。


「老後って、こんな感じで時間を使うのでしょうか?」


 回転焼きを食べ終えて、桃亜がつぶやく。

 

「今は、考えられないけど、そうなんじゃないかな?」


 まだ老後って実感はないが、きっとこれはこれで楽しかろう。


「退屈だったか?」


「いえ。ですが、持て余しますね」


「仕事も休みだからな」

 

 今日は一日遊ぶと決めたので、バイトも入れていない。


「仕事がないと、落ち着きません」


「ゲームとかしていないと、ソワソワするかもな。でも、ゲームで時間を潰すとあっという間に一日が終わるし」


「そうなんですよね」


 桃亜は部屋の掃除をこまめにするタイプなので、片付けや掃除に時間を使わない。外出時も、ロボット掃除機に任せている。


「でも、いすゞさんといっしょなら、全然退屈はしませんよ」


「そうかー。ありがとうな」


 明日から学校だ。


 なんだか、リフレッシュできた気がする。


(第七章 おしまい)

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