第29話 おうち焼き鳥
カセットコンロ炙り、一日目がスタートする。
「まずは、こいつでどうだ!」
あたしは、焼き鳥をチョイスした。
「いいですね!」
「ひとまず、
「お願いします」
バイト先にて、桃亜はまた修羅場に入ったようだ。フルリモートとはいえ、缶詰に近い状態。
「いすゞさんのと焼き鳥をすれば、また明日もがんばろうって気持ちになりますっ」
胸の間で握りこぶしを作り、桃亜がノートPCにへばりついた。
「待ってろ。桃亜ががんばっている間に、ゼイタクな焼き鳥を仕込んでおくからな!」
さっそく、焼き鳥を仕込んでいく。
まずは鶏もも肉を、皮と身を切り分ける。身は身で、皮は皮で串を打つのだ。
ネギも切って、ねぎまも作っていく。
砂肝も串を打ってと。
続いて、手羽を開いて、串を二本打つ。
「とっておきが、これだ」
ほんじり。文字通り、鶏のケツの部分だ。希少部位なので、どんな味がするか楽しみである。
「次のとっておき食材は、やげん軟骨だ!」
鶏の胸肉あたりにある、軟骨部位のことだ。あたしもよく知らないが、とにかくうまいらしい。
「焼き鳥はこの辺で」
次に仕込むのは、ベーコン巻きだ。
アスパラ、プチトマト、チーズを、ベーコンで巻く。
ナスは、ベーコンといっしょに巻いて。
「いよいよ、タレを作るか」
今回の焼き鳥は、半分を塩でいただき、残りはタレで食う。
あたしたちは学生のため、酒飲みじゃない。「オール塩」ってのは、ちょっと違う気がしたのだ。白米も食うから、やっぱりタレでも食べたい。
焼き鳥屋さんによると、「醤油:みりん:酒:砂糖」の割合は、「2:2:1:1」がベストらしい。
ほんの少し、チューブショウガを加える。
ニンニクも入れるといいらしいが、学校があるため使わない。
「おお、香ばしい」
フライパンでタレを煮ているだけで、腹が減ってきた。
「いい香りがしてきました」
タレの香りに、桃亜が反応したようである。
「今日は、海鮮はないんですね?」
そのとおり。今日は、海鮮を買っていない。
「ああ。エビとかホタテも炙ろうか悩んだんだけど、そっちは後日で」
「楽しみにしています!」
「あと悪いんだが、今日はつくねも串焼きにしない」
「そうなんですか!?」
つくね大好きな桃亜が、ガタッと立ち上がる。
「ガッカリしなさんな、桃亜。ちゃんと、つくねはできてる。だが、串焼きにはしないって話」
「でしたらば」と、桃亜は座り直した。
で、串を焼いていく。
この炙りコンロは、串焼きモードと網焼きモードで、網が変わる。
串焼きの場合、網を置かないで直接焼く。ちゃんと、串を通す溝があるのだ。
「あわわ。もう集中できません」
空腹で限界なのか、桃亜が幽鬼のように立ち上がる。
「ガマンだ、ガマン。もうちょっとだからよ」
「わたしも、最後の仕上げなので、もう少しだけ持ちこたえます」
最後の力を振り絞り、桃亜が仕事を終わらせた。
あたしのほうも、焼き鳥第一陣が完成する。
「もう限界です!」
「よし。ごはんをよそって、いただきますっ!」
二人して、串にかじりつく。
「ねぎまうめえ!」
「タレも塩も、どっちもうまいです!」
お嬢様という身分を忘れて、桃亜は白米とともに焼き鳥を貪った。
「ヤゲン軟骨って、コリコリしていておいしいです。ゴハンにも合いますね!」
「ほんじりも初めて食ったけど、こんなにうまいのか」
どちらも脂がすごいが、それがまたメシに合う。
「砂肝の歯ごたえも、また格別ですね」
「うん。メシに合うか悩んだけど、これはこれでうまいな」
意外といけたのが、手羽である。
手羽は煮物か焼き物というイメージがあったが、串を打って焼くとこういう味わいに鳴るとは。
「続いて、いよいよつくねを……」
あたしは、特大つくねを焼きにかかる。
「なるほど、ハンバーグに!」
「そういうこと」
桃亜の食べっぷりに合わせて、大きめにつくっておいた。
網焼きつくねハンバーグが、完成!
「おおおお! おいしい!」
つくねといえば、市販のレトルトパウチハンバーグも鶏肉を使っている。
だがこのつくねは、それとは違った味わいが感じられた。
雑味といえば雑だが、独特の風味になっている。
「これは、おいしいです。鶏肉ってヘルシー感が満載で、あまり罪悪感を覚えないんですよね」
「だよな。まあまあ、落ち着いて」
あたしは、ネギを切ったついでで作っておいた味噌汁を用意した。
「根深汁も、作ったんですね?」
桃亜が、味噌汁で落ち着く。
「ネギッつったら、根深汁かなって」
「串焼きのネギとは、また違った世界が見えてくるものですねえ」
たしかに。体も温まる。
「ごちそうさまでした」
「あたしも、ごちそうさま」
残った調理した食材の一部を、冷凍室へ。
「いいんですか? わたしなら何ラウンドも食べて、全部食べきれると思いますが?」
「こっちはこっちで、別の料理を作る予定だから」
串料理の一部は、後日のお楽しみだ。
「わかりました。いすゞさんのアイデアですから、きっとおいしいはずです!」
「楽しみにしておいてくれ」
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