第21話 バーベキュー

「いすゞさん、ビビ、ビーチバレーだなんて。そんなリア充な遊びに、わたしが混ざっていいのでしょうか? いすゞさん!?」


 レシーブを構えながら、桃亜ももあは腰が引けている。

 

「いいんだよ。ビビってんなって」


 あたしはフォローを入れた。


 ビーチバレーで、死ぬやつなんていないんだからな。


 遊ばせてくれている、店長に感謝だ。

 

 あまりにもインド式ミルクセーキが売れてしまい、あとはビールくらいしか売るものがなくなったという。

 で、店長が「遊んでこい」と言ってくれた。


 で、遊んでいるわけだが。


 桃亜がレシーブをしたが、あいにくボールはあさっての方向へ。

 やはり、運動神経はそれほどでもなさそう。


「よし、あたしがフォロー入れるから、よしトス」


 あたしが浮かせた球を、桃亜がトスした。 


「おお、うまいうまい」


「やりました」


 その後、しばらくノノたちで回してもらう。


「はあ。はあ。結構、体力を使いますね」


 ビーチバレーは、すぐお開きになった。


 そもそも、気温が暑すぎるのだ。


「姉ちゃん、ドリンクをちょうだい」


「自分で取っていきなー」


「そうするー」


 ステンレスのジョッキで氷ごとドリンクをすくい、ビニール袋に詰め込んでいく。


 これが、インド式のドリンクである。


 かちわり氷だと、元々氷がポリ袋に入っているものだ。


 インド式のかちわり氷ドリンクは、ポリ袋に液体を氷ごと入れる。


「うんまい。甘ったるさが、涼を求めている身体に染み渡るぜ」


「おいしいです。こんなのを、社長は飲んだんですね。うらやましいです」


 みんなで、インド式ドリンクを楽しんだ。



 

 夕方は、バーベキューを行う。


 ノノたちが、火をつけてくれた。


 桃亜が、野菜などの食材を切る。


 あたしは大量のホルモンをボウルに入れて、塩で揉む。三〇秒ほど揉み込んだ後、水で洗う。こうすることで、ホルモンの臭みを消すのだ。


「いい肉ですね」


「そうなんだよ。最高の肉を、ケバブ屋に教えてもらった」


 肉は、店長であるノノの姉ちゃんが、用意してくれた。ケバブ屋から、いい肉の流通先を教えてもらったらしい。


 鉄製の網に、カルビ、ハラミ、ロースを乗せていく。そして、隅の方にはホルモンも。


「いいですねえ。月明かりを浴びて、脂がテラテラしています」


 食を前にすると、桃亜は妙に詩人めいた状態になる。 

 

「みんな、今年もお疲れ。じゃんじゃん食ってくれ」


 今日はバイトの最終日だ。明日はお祭りなので、仕事はない。

 

「はい。いただきますっ」


 白飯とともに、ロース肉をかっ食らった。


「あああ、うまいっ」


 桃亜のいうとおり月の光を浴びているからか、とんでもなくうまい。地球上の食い物では、ないみたいだ。


 こんなに、肉って美味かったっけ?


「おいしいです。おお、白米が止まりません」


 桃亜はカルビを、コメに巻いて食べている。


「ももっち、すげー食うね」


「あっ。すいません。遠慮のない女で」


 からかわれたと思ったのか、桃亜が萎縮した。


「じゃなくって。ジャンジャン食べてくれてうれしいねー。もっと食べちゃってー」


 ノノが、桃亜の皿にドッサリハラミを乗せる。


「ももっちのために、育てておいたから」


「ありがとうございますっ」 


 リクエストに応えて、桃亜がガツガツと肉を食らう。


「いい食べっぷりだねえ。いすゞの言っていた通り、見ていて気持ちがいいよ」


「だろ?」


 あたしはノノといっしょに、烏龍茶を一気飲みした。


 店長は、鉄板でホルモン焼きそばを焼いている。


 ああ、なにこの殺人的なスメルは!


 焼き肉をめちゃくちゃ食っているのに、腹が鳴り始める。


 ホルモンはさっき、大量にいただいたんだが。


「ああ、おいしいです」


 ホルモン焼きそばに、桃亜が箸をつけた。


 みんなもつられるように、手を伸ばす。


「ホントだ。内蔵くっさいのに、止まらない……」


 ノノが、トロ顔になっていた。


「まだ塩もみが足りなかったか?」


「そうじゃなくて、焼いたから臭みが戻ったっぽい。でも、多少臭いほうがさ、ホルモンを食ってるって感じがしねえ?」


「するする」


「なら、結果オーライじゃん。もうちょっと行っておこうよ」


 あたしの皿に、ノノが焼きそばを乗せていく。


 おお。最高だ。パワーが漲ってくる味である。


「若いんだから、どんどん食べてよね」


「いただきます。いいんですか、こんなにもごちそうしてもらって」


「お姉さんくらいの歳になるとねえ、若い子にいっぱい食べさせたくなるんだよ」


 桃亜と店長が、焼きそばを囲んで話を始めた。

 

「わかります。ウチの社長も、同じことを言っていますね」


「マジで? 話がわかる人だねえ」


「話していて、楽しいんですよ。副業で今の会社をやっているんですが、本業の愚痴とかは言わない人で」


「いい人だ。大事にしなよ」


「はいっ」


 なんか、盛り上がっている。



 食後、みんなで花火をした。


「わたし、こんな賑やかな夏休み、初めてですね」


「そうなん?」


「親戚が大人ばかりなので、同年代の子たちとお話なんてしたことがなくて」


「じゃあ、今年はいろんなことができてよかったな」


「はいっ」



 明日は、祭りの日である。


 軍資金を大量に持って、食べまくるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る