第19話 モールで水着選び

 ノノが、あたしたちを水着選びに誘ってくれた。

 

「海の家で、アルバイトですか?」


「そうそう。ウチの親戚が、海の家をやってるんよ。いすゞも毎年、海に来るんだよ」

 

 あたしも、ノノの言葉にうなずく。


「そうなんだよ。三日間だけ、海の家で働かせてもらうんだ」


 お祭りの時期があり、みんなで花火大会を見るのが習慣になっている。


 中学まではただのボランティアで、給料もまかないとか、お祭りのこづかいをもらうだけだった。今回あたしは高校生なので、ちゃんと金が出る。


「海の家、たしかに麗しい響きです。海の家のカレーやラーメンって、オーソドックスなので、味わい深いですよね」


「わかってんねー。細江ほそえちんは」


 海の家に抵抗がなさそうな桃亜ももあに、ノノもうれしそう。


「ですが、わたしは何もできません。運動神経もないので。わたしなんかが行って、役に立つのでしょうか?」


「いてくれるだけでいいし。あっ、そういえば。いすゞから、細江ちんはITに詳しいって聞いたよ。キャッシュレスを導入したから、それのトラブルとか出たら解決してくれん?」


「任せてくださいっ。レジ係をやらせていただきますっ」


「ありがとー。細江ちん」


「いえいえ。お役に立てそうな仕事があって、なによりです」


 桃亜も、できることが見つかって、楽しみにしているみたいだった。


「じゃあ改めて、水着を見に行こうよ。いいのがあると思うよ。見てあげる」


「お願いします」


 水着売り場に、到着した。

 

「いすゞ、お前さー」


「んだよ、ノノ?」

 

「早々に、スポブラ系の水着チョイスするのやめなー」


 あたしの水着選びに、ノノが文句を言う。

 

「えーっ。なんでだよっ。これが一番動きやすいんだって」


 バイトのときは、毎回こういう系を下に着て、Tシャツとボトムで決めるのが、あたしのスタイルだった。そのまま海にドボンしても、水着からいろんなものがこぼれたりしない。安全安心。やはり、スポブラは裏切らない。


 しかし、ノノは両手でバツを作る。


「今回に限ってNGとか、理由を言わんかいっ」

 

「だって、お前みたいなボーイッシュ系がスポーツ水着って、もう見飽きてんだよ。お前ってD寄りのCじゃん? 多少エロいのを着たって、そこまで扇状的ではないと思うんだよね」


 見飽きたってなんだよ!? 


「ウチらもう、高校生なんだよ? もっと垢抜けないとさぁ。特にいすゞは。お前はもうちっと、ガーリッシュなのが似合うって。ウチが保証するし」


「はい。野能原ののはらさんのいうとおりですっ。いすゞさんは、もっと自分の魅力をアピールして、いいお年頃かなーとっ!」

 

 ノノの言葉に、桃亜まで乗ってきた。どういう年頃なんだよ?


「桃亜は、あたしにピッタリ合いそうな水着って選べるのかよ?」


「はい。ビビッときたものが、こちらに」


 桃亜が試着室まで、あたしを連れて行く。


 ハンガーに掛かった水着を、すっとこちらに向けてきた。


「こちらなんて、いかがでしょう?」


 そう言って桃亜がチョイスしたのは、なんとヒモビキニである。


「おいおいおい。ちょっとまってくれ」


 いくらなんでも、やりすぎかと。


「大丈夫だと思います。ヒモの割に布面積はそこそこあって、セクシャルな感じはしません。いすゞさんのプロポーションを、全面的に引き出してくれています」


「どうなんだろうなぁ」


 ヒモビキニには、抵抗があった。とはいえ、桃亜の期待に応えないわけには。

 

「いいじゃん。これで。ヒモっつっても、飾りだし」


「しゃーないか。値段もいい感じなのが、なんかムカつくな」


 あたしは、試着室へ入る。


「うーん、たしかに、そこまでエロくない」

 

 サイズまでぴったりフィットという、運命っぷり。


「いいね。お前にしては、攻めてんじゃね?」


「攻め過ぎだと思うぞ、あたしは」


 とはいえ、ノノのほうがよっぽど攻めた水着を選んでいたが。谷間にグラデーションの付いたセパレートとか、狙ってんのか?


「すごいです、ノノさん」


「いえーい」


 黒いビキニを着ながら、ノノがVサインを見せる。


「じゃあ最後は、細江ちんねー」

 

 桃亜は、貧相な体型をフリルで隠すというキュートな水着を、ノノに選んでもらっていた。攻めてはいないが、桃亜の視点に立った良いチョイスだと思う。

 桃亜は攻めようにも、あまりに体型が幼いからな。裸に近い水着を着ていたら、最悪変な趣味のおじさんに付け狙われる。


「今日はありがとー。いすゞ。細江ちんも」

 

「こちらこそ。ですが、ありがとうを言うのは、こちらです」


「なにが。細江ちん?」

 

「わたしが多ぐらいだと知っても、普通に接してくださっているので」


「ああ。あれくらい普通に食べるっしょ。ウチだって、おいしそうなスイーツあったら、三っつ同時食いとかするもん」

 

 なにやら、ノノと桃亜は不思議なシンパシーを感じているみたいだ。


「じゃあ、ももっちって呼んでいい? ウチも、ノノって呼んでいいからさ」


「はい。ぜひぜひ。ノノさん」


 急速に、ノノと桃亜が仲良くなった。


「よかったな、桃亜。新しい友だちができて」


「楽しみだね。海の家」


 あたしとノノと桃亜で、肩を組み合う。

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