断酒の決意

白川津 中々

◾️

朝起きるとメッセージアプリに無数の罵詈雑言が飛んできていた。

もしやと思い財布の中身を見ると大幅に減っている。またやらかしてしまった。酒の席で理性が喪失し、信用と金を失ってしまったのだ。昨晩は大いに盛り上がり随分と楽しかった。だが途中から記憶がない。この記憶がない部分で俺は獣となり、多くの人々を困らせ、その足で一人飲み直し、淫猥な遊びをしていたに違いなかった。口にするのも憚られるような悍ましいことを他でもない俺がやっているのだ。血の気が引く。これからは断じて酒はやめる。それでしっかりと生きていかなければならない。誰にも迷惑をかけず、人として自らを律し、生きる喜びを享受して日々を送るのだ。それこそが正しくまっとうな道ではないか。そうとも、そうでなくては人間の資格がない。俺は強く決意し、今後の戒めとして、送られてきたメッセージを確認した。「二度と話さん」「品性を疑う」「くたばれ」等、数々の批判が胸に刻まれていく。これだけの人達にこれだけのことをしてきたという事実が響き、更生に導かれていくと同時に、ご迷惑をおかけしてしまい、ご不快な思いをさせてしまった事、深くお詫び申し上げたい気持ちでいっぱいとなる。


というところに一件、別方向の内容を発見。


「昨日はありがとう。次来てくれたらもっと楽しいことしよ」


獣の俺が立ち寄った店の女からだ!

穢らわしい! けしからん! こんなふしだらな、いかがわしい店に行っていたのか! 素行不良が過ぎるぞなもし!


……


もっと楽しいこと。

その一言が引っかった。ちょっと行ってみるかと、そういう気分にさせるのだ。


俺は思わず飲みさらしていたウィスキーの栓を抜いてボトルを煽った。身体中に火がつき、血液がどくどくと早くなる。忌むべき快楽。忘れ難い背徳。人であることを忘れ、享楽に耽られる状態!


「行くか」


部屋を出て、店に向かう。

酒を断つ気力はもう、すっかりと失せていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

断酒の決意 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ