空間から

stdn0316

第1話

 友達がいたんですよ。

 Aってやつなんですけど。

 大学が同じで、学部も同じだったんでよく遊んでたんですね。

 で、俺の方が大学からアパート近いから、何となく俺の部屋で駄弁るって感じで。

 まあ、何するってわけでもないんですけどね。

 金もないし彼女もいないからお互いやることなくて。

 その日も特にやることなく部屋で各々漫画読んだりして過ごしてたんですけど、トイレから戻ってきたAが変なこと言い出したんですよ。

「お前んちの風呂の天井、なんか空間あるよね」

 ユニットバスだったんで、トイレ行くと風呂も見えるんですね。

 でその天井の空間てのが、俺もちゃんと見たことなかったんですけど、その天井にフタみたいなのがついてて外せるんですよ。

 あれ点検口っていうんですかね。業者が換気扇とかの点検に使うやつ。

 その時は俺ら二人ともそれが何なのか知らないから、ちょっと見てみようぜ、って。

 ほんとヒマだったんですよね。

 引っ越してきてからまだ荷解きしてない段ボールが何個かあったんで、それ重ねて上乗って、フタ開けてみました。

 以外と中は広くて、ちょっと埃っぽかったかな。屈んだらある程度動き回れる感じで、今思えば点検で見るのかな、っていうダクトみたいなのがありました。

 まあそんなもんか、って思いました。特に面白くはないし満足してフタ閉めようとしたんですよ。

「ちょっと中入ってみるわ」

 Aが手をかけて中入ってったんですよ。

 やめろよ天井抜けるぞって言っても、ちょっと見るだけだって言って。

 最初のうちは、お〜とか、いてっ!とかAが動き回ってる音とか声が聞こえてたんですけど、ちょっとしたら静かになったんですよ。

 名前呼んでも返事がないから、何してんだよって、俺も中覗き込んでみたんですけど。

 A、どこにもいなかったんです。

 いくら暗くても、人が見えなくなるほど暗くも広くもないんですよ。

 状況が分かんなくて、Aがいるはずの誰もいない空間を見つめてたら、

「おーい、お前も入ってこいよ」って。

 そこから先はあんまり覚えてなくて、気づいたら近所の漫画喫茶にいました。

 Aはそれ以来大学に来なくなって、家にも帰ってないみたいです。

 当然ですよね。まだあそこから出てきてないんですから。

 よく遊んでたんで、色々聞かれました。何か知ってないかって。いなくなった日も一緒に居ただろって。

 知らないって答えました。一人で帰ってそれっきりだって。

 だって信じてもらえるわけないですもんね。

 まだあの部屋に住んでますよ。特に生活に支障があるわけじゃないんで。

 でもたまに聞こえるんですよ。あの空間から。

「おーい」って。

 それ以外何もないんですけどね。

 中?見ないです見ないです。無理無理。

 でもあそこにまだいるの、多分Aじゃないんじゃないかなあ。

 声が全然違うんですよ。最初に聞こえた時から。

 そもそも点検口にしては広過ぎるし人入れるし、あれ何だったんですかね?



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