第2話 十年後
あの一件以来、ベルティーユとは少しずつ仲良くなった。
剣の助言をし、ベルティーユは俺に講義の課題に力を貸してくれるようになった。
そんな俺たちの変化にリンデンに「いつの間に仲良くなったの?」と笑われた。
それから十年後。
十九歳になったベルティーユは聖女として皇族や災害で怪我した人を癒す聖女として活動し、俺は神殿騎士として働いていた。
帝国騎士になることもできたが、神殿に来た当初より帝国騎士になりたいという思いは薄れ、神殿騎士として神殿の警備に帝国騎士団と共に魔物討伐の遠征などに行っていた。
「北部で魔物がたくさん現れたみたい」
「また?」
神官になったリンデンがそう呟いて眉間に皺が寄る。
ここ数ヵ月、魔物の発生報告が急増している。それは神殿はもちろん、皇族に帝国騎士団も把握している。
「考えたくないけど魔王かな」
「よせ、そんな話」
不穏な単語を発するリンデンに止めるように言う。
現在、神殿に帝国騎士団が原因を調べているが、神殿内でも魔王の発生は噂になっている。
その話は当然、聖女であるベルティーユの耳にも届いている。
正直、俺自身も魔物の発生報告に嫌な予感がしている。
先月も帝国騎士団と共に遠征に出たが以前より明らかに強くなっていた。
それでも先月の遠征には聖女であるベルティーユも同行して聖剣を使用したので怪我人も殆どいなかった。
「なぁに、そのうち治まるさ」
「アラン……」
リンデンが困ったような顔を浮かべる。
親友が困った顔している理由は分かっている。俺が、そんな呑気な発言と真逆の顔をしていたからだって。
***
嫌な予感は当たるものだ。
神殿と帝国騎士団の調査の結果、魔王が現れたことが明らかになり、ベルティーユに魔王討伐の勅命が下された。
「ベルティーユ」
「あら、アラン。久しぶりね」
回廊で見つけたベルティーユを呼び止めると、ベルティーユが俺を見て微笑む。
最初は俺を様付けしていたが、長い時間と共に過ごすうちに互いに「アラン」「ベルティーユ」と呼び捨てするようになった。
身分として向こうは聖女であるのは分かっている。でも、ベルティーユは昔と変わらない呼び方をしてほしいと言われたから俺もリンデンも呼び捨てにしている。
「もう行くのか?」
「そうね。旅支度はさっき終えたから明日の朝に出発する予定よ。少しでも民の不安を減らさないと」
窓を見つめるその横顔は覚悟を決めた顔だが、金色の瞳の奥はどこか揺れている。
「……一人で行くのか?」
「ええ。神官長様には仲間を連れていきなさいと言われたけどみんなを巻き込むわけにはいかないから。断ったの」
「はは、お前らしい」
笑うとベルティーユが微笑む。
「ごめんね、明日は早いからもう寝ないと」
「そうだな。見送りくらいはするよ」
「ありがとう。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
就寝の挨拶だけ交わして別れると少し離れたところでリンデンが壁に背中を預けて俺を見る。
「それで、見送りだけ?」
「はっ、そんなわけないだろう?」
「そうだよね」
笑う親友に俺もニヤリと笑った。
「……どうして」
出発しようとしていたベルティーユが驚きの声を上げる。
「いや、魔王ってどんな姿してるのか気になって。だから俺も行く」
「僕もアランと同じ」
「二人とも何言ってるの!? 神官長様は!?」
「あー、なんか『そんなに見たいなら行け』って言ってな」
「だから神官長様のお言葉に甘えたんだ」
「リンデン、そこはアランを止めるべきでしょう!」
笑う俺たちにベルティーユが怒るが知らぬ顔だ。
俺一人ならベルティーユはうるさいが、真面目なリンデンがいたらうるさいのが半減するのでそれを利用する。
「ベルティーユ、お前が強いのは知ってる」
金色の瞳をまっすぐと見つめて告げる。
真面目なベルティーユは剣の才能がなくても努力を続けて強くなった。
「でも、今回はいつもの遠征と違う。俺は魔剣を持ってるから力になれるはずだ。──仲間だろ、心配くらいさせろ」
「……っ、本当に……アランもリンデンもバカよ」
「あはは、そうかもね。でも、一人で行くより心強いでしょう?」
「……そうね。ありがとう、二人とも」
嬉しそうに微笑むベルティーユに俺の口許が緩んだのは内緒だ。
***
道中の旅は意外と平和だった。
魔物の襲撃は何十回もあったが遠征経験が役に立って連携もすぐ取れて大きな問題もなく魔王城まで辿り着いた。
魔王城の魔物も道中の魔物と比べて強かったが三人で協力して突破した。
そして、最後の戦いも決着が着いた。
『ぐはっ……!!』
聖剣を持ったベルティーユが魔王に止めを刺す。
魔王は刺されたところから身体が砂に変わっていき、勝利を確信する。
「ベルティーユ、怪我はないか!?」
「アラン、大丈夫よ。……これでようやく終わったわ」
ベルティーユが安堵の息を零す。任務を終えてほっとしているのが分かる。
弱音も吐かずにやり遂げて、ベルティーユは本当に大きな大役を成し遂げたと思う。
「……! ベルティーユ、後ろ!!」
「え――」
しかし、安心したのも束の間。
リンデンの叫びと同時にベルティーユの腹に黒い光線が素早く貫通し――ベルティーユの口から血が零れた。
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