2、宝箱の設置は裏方の仕事

 それから三時間くらい経った頃だろうか。

 ダンジョンの奥からアイテム管理部のジオンさんがやってきた。

 作業服姿のくたびれたおっさんだ。

 どうやら今日は宝箱の補充の日だったそうで、下層フロア部分の宝箱を新しくしてきたらしい。

 当然だが、冒険者たちの大好きな宝箱はこうして裏方が設置しているのだ。


「いやー、さっきのはマジでしんどかっわぁ。爆薬ばっか使う奴らがいて、煙がすげーのなんのって」


 とは、彼の談だ。

 なんでもやたらと敵に爆発系のアイテムばかり使う輩がいるらしい。

 しきりに『あのクソ部長、爆ぜろ!』とか言っているそうだ。

 ストレスでも溜まっているのだろう。

 ジオンさんは酒片手に言った。


「あ、そういやさっきアズちゃん見たぞ」


「あー、なんか新規で来たお客さんが心配で見に言ったぽいです。というかそれ、見つかったら、また怒られられますよ? いま勤務中なんですから」


「あっはっは! これは酒に見えて中身は水だから問題ねぇのさ。それより新規? んじゃ、もしかしてあの爆発野郎がそうか? あの、やたらごっつい装備してた」


「ああ、そうかもです」


「ふーん?」


 ぐびりと、ジオンさんが酒をあおる。


「じゃあ、ちっと不味いかもなぁ……」


「? なにがです?」


「ほれ、アズちゃん。ああ見えてCEOに惚れてんだろ? だから、このダンジョンぶっ壊すようなことされたら、かなり怒るんじゃないかって思うんだよ、俺はさ」


「ああー……、たしかに」


 アズ先輩はCEOに熱を上げている。

 しかしCEOにはすでに綺麗な奥さんがいて、愛妻家でもあるので、アズ先輩はこっそり想いを寄せている。

 だから行き遅れ……いやこういうこと言うとアズ先輩の殺戮の天槍てんそうが降ってきそうだからはっきりとは言わないけど、つまりは売れ残りなわけだ。

 ともかく、普段は魔法で編まれた破壊不能の付与が成されているダンジョンだが、何かの拍子に術が外れると、フロアが倒壊するおそれがある。


 それは決まって、爆発系のアイテムを連用された時であり、しかも神級レベルの爆弾。

 文字通り、この世界の古神文字が刻まれた爆弾だ。

 材料もレア。

 貴重なアイテムゆえ、このダンジョン内でも天層フロアの宝箱でしか手に入れることができない。

 それを耐神級付与が成されていない下層フロアで使われると、察しの通り、ダンジョンは壊れる。


 ゆえに、その爆弾の仕様は上層のみで使うよう注意事項にもかかれているのだが、たまに守らないお客様もいる。

 そこは全フロアに耐神級付与しとけよと思うがコストの問題があるのだ。

 だからルール違反者が出ないよう、しっかりお客様へ注意事項を伝えるのも俺の大事な役目だ。

 さらに、そんなルール破りのお客様には、アズ先輩が鉄槌を下す。

 このダンジョン内での迷惑行為ならびに破壊行為には、もれなくアズ先輩によるドぎつい光の制裁が降り注ぐので、注意されたし。

 俺は受付席から立ち上がる。


「じゃあ、俺、見てきます」


 ジオンさんがきょとんとした顔をする。


「ええ? そしたら受付どうすんよ、いなくなんじゃん」


「ジオンさん、お願いします。次のピークまで一時間くらいありますし、まあ、大丈夫でしょう」


「いや、俺宝箱補給係だし。受付の仕事なんてできねぇよ?」


「大丈夫ですよ、ただ座ってるだけの簡単なお仕事ですから」


「おまえそれ、CEOに聞かれたら怒られんぞ」


 渋々と言った感じで引き受けてくれたジオンさんに礼を述べると、俺は下層フロアに向かった。

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