こんなに朗らかな声で語られるホラーが、こんなにも怖いとは。
主人公・鳴沢の語り口は、素直で親しみやすく、少しユーモラス。気になるクラスメイトのことも、好きな男の子との会話も、部活動や帰り道の出来事も、友人のお喋りを聞いているような軽やかさで語られます。
ところが、明らかに異様なものが日常へ入り込んでも、語りの親しみやすさは失われません。
驚きながらも理由を探し、相手を思いやり、ときには目の前の光景を前向きに受け入れてしまう。
――いや、そこは受け入れていいところではない……!
読みながら何度そう呼びかけたくなったことでしょう。しかし、その声は鳴沢には届きません。彼女が異常さを日常の言葉で包み込もうとするほど、読者の中で鳴り響く警鐘は大きくなっていきます。
この、語り手と読者の認識が少しずつずれていく感覚が、たまらなく恐ろしい。
描かれる「羽化」は、息を呑むほど美しく、それと同時に生々しい。幻想とグロテスクのどちらにも振り切らないからこそ、目を逸らしたいのに、その先を確かめずにはいられなくなります。
蝶。蛹。そして、見届けるということ。
何気なく現れた言葉が、物語を進むほどに別の温度を帯び、八話を読み終える頃には、題名の『羽化』さえ最初とは異なる響きをもって迫ってきました。
大声で脅かすのではなく、親しげな語りに手を引かれ、気づけば引き返せない場所まで連れていかれる――。
どうか、この「羽化」を最後まで見届けてください。
ただし読了後、背中がむずむずしても――決して、深く考えすぎませんように。