第10話
第 九夜
「よく考えろドロ人形、オマエは進化してるんだ。大王から見れば、これまでのオマエは大海原の蠅一匹くらいのモノだったが、今は具現化してるぞ ドロ人形だが」
寿限鉾に言われるまでもない。初めて寿限鉾に出会った時………媒体の中ではなかった。そうだったのだ。 進化している。
「もういいか?」 麒麟慈が面倒くさそうに言った。 「これからある国の大統領だった男を大王の前に引っ張ってくるプランがある」 壱丹がため息混じりに被せる。
「人間と云う生き物はまったく底なしの欲望の塊だ」
魔弥矢は、ここで思いだした事件を、行こうとする麒麟慈を強引に止めて問うた。
「民宿かるべ」の主人覚えてますか? あなたが迎えに行ったと云う事は極悪人ですよね!でも………自分には極悪人には見えなかった」 麒麟慈は薄く笑った。
「あの男は若い頃から強盗殺人、放火殺人を繰り返してきた。長年、誰にも気付かれずにな。「民宿かるべ」には忌まわしい過去を隠してまんまと婿養子として入り込んだが、性根は変わってないからすぐに馬脚を露す。そして、あのザマだ」
なるほど、閻魔が「あの人間を生かしておく訳にはいかない」と言ったのはこう云う事だったか………では、大多数の「ノーマルプラン」を道連れにしたハイジャック犯が「極悪リストレベル3」だった謎は? これには不知火が答えた。
「本当に悪い奴らは他にいる、その日が来たら麒麟慈が迎えに行くさ」 「………?」
首を傾げている魔弥矢に不知火が言葉を紡いだ。
「自爆テロを起こした二人は生まれて間もなく攫われて人間兵器として育てられた
自爆テロこそ神への道だと教えられ、己の命を神と云う歪んだ象徴に捧げる。本当の悪は背後で蠢く奴らなのさ」
「もういいか?」 私に感謝しろよと、寿限鉾が言って消え去ろうとする五柱の前に魔弥矢が立ちはだかり 「最後にひとつ‼」と、布が巻かれた人差し指を立てて
「お願いします‼」と頭を下げた。
「これが最後だぞ、調子に乗りやがって!」壱丹が瞳に赤い焔を燃やしながら言った。 「………はい…あの………自分も死神になれますか………?」
あまりに意外で唐突な魔弥矢の質問に死神たちは啞然とした表情である。
「大王に一撃で弾き飛ばされるぞ」と、幻浄が小声で言えば 「調子づきやがって!」と壱丹。しかし、言葉とは裏腹に満更でもなさそうである。
「死神になってどうする?」 不知火が言った。 え⁉なれるの⁉ と、魔弥矢は内心小躍りした。思いついたまま言ったまでだったのだが………
そこで魔弥矢は、予てより人を見る目がない自分を鍛えたいと尤もらしい事を言い
閻魔の前に引き摺って来られた極悪人がどんな抗弁で罪を逃れようとするのか この目で見てみたいと訴えた。ここは本音である。
近々 ある国の大統領だった人間を麒麟慈が迎えに行く。卑しくも大統領だった人間が極悪人だと云うイメージが湧かないから尚更この目で確かめてみたいのだ。
そしてレベル5とはどんな地獄であろうか………と云う強烈な興味である。
地獄の世界でも死神界は特別な世界である。
人間界で云う独立行政法人の様なものだ。 勿論 地獄界のトップは閻魔大王であるから死神たちも大王の意に沿って行動しているが 小鬼やサイス、グルコンと云った
大王の手下ではないので地獄の「心得」を遵守していれば問題は起きない。
そして死神は大王と同じく不老不死と云う特権をも持っているのである。
死神はなりたいと云ってなれるものではない。
かと云って家柄でもない。 素質と偶然と圧倒的な熱意と七柱の承諾が必須だ。
今 魔弥矢の目の前にいる五柱の他に二柱の承諾がいる。
「さ…て……どうしたものか……」 幻浄が腕組みをして目を瞑る。
この流れには麒麟慈が嚙みついた。 「馬鹿馬鹿しい‼ 話にならん‼‼」とキレ気味に吐き捨てると空間に消えそうになった。寸前で麒麟慈の腕を掴んでより戻したのは寿限鉾だった。壱丹が幻浄と並び腕組みをしてニヤニヤしている。
不知火はプイと背を向けて我関せずを装っている。
「落ち着けよ麒麟慈、何でそんなにこのドロ人形を目の敵にするんだ?いいじゃないか、面白い」麒麟慈は瞳に青い焔を燃やし寿限鉾を睨んだ。
「どこが面白い‼ こいつは虫けらだぞ‼ 虫けらが死神⁉ 大概にしろ‼‼」
「その虫けらってとこが面白いんだよ、虫けらにも五分の魂って言うだろ?」
黙って聞いてりゃ―――虫けら虫けらと………
いつまでもドロ人形、バグ、虫けらと言いたい放題の五柱に魔弥矢は段々腹が立ってきた。やがてその怒りは頂点に達し遂にブチ切れる事に………
「大体!お前たちだって!人様に聞こえの良くない死神のくせに―――‼‼ 虫けらをナメんなよ―――‼‼‼」
五柱を相手に大声でガナる魔弥矢に死神たちは一斉に静まり返り静止画の様に
なった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます