第2話
第一夜
悪霊のうち、一番数が多いと思われる小鬼は頭髪がなく尖った耳と鉤鼻、大きくへの字に曲がった口と云う道具を揃えた一際醜い面相だ。言葉は発せず襤褸をまとい常に裸足である。片時もハンマーを離さず隙あらば振り下ろしてくる。
しかし皮肉なことに魔弥矢は数で押してくるこの小鬼とバトルを繰り返すうち、自然と腕が上達し易々とは負けなくなっていった。すると小鬼より格上の怪人が現れた。魔弥矢は最初、この、柄の長い鎌を持った怪人にメッタメタに切り刻まれたが 翌日になるとケロリと蘇り何事もなかったかのように再び挑み腕を上げていくのである。
この格上の怪人と初めて対戦して暫くは 跡形もなくなるほど打ち付けられ刻まれ、潰されてしまったが痛みは感じた事がない。 ただ遠いところから 潰されて僅かに残された己の血溜まりを虚しく見つめるばかりであった。魔弥矢はこの怪人に「お前は死神か?」と訊いた事がある。しかし怪人は答えず無茶苦茶に鎌を振り回してくるばかりだった。
魔弥矢は今 海を泳いでいる。すぐ隣ではイルカが一頭魔弥矢のスピードに合わせる様に泳いでいた。
はるか遠くに漁をする船の灯りが見える。いや、見えたと思った瞬間船は目の前に現れ網を放ってきた。小さな船なのに漁師の人数が異常に多い。そしてどの漁師の貌も貌無き貌である。網が魔弥矢と並走していたイルカを捕らえた。だがイルカは激しく抵抗し漁師3人を引きずったまま海中に潜り込んだ。 後を追う漁師たちが次々と海に飛び込むのだが行儀よく一列に飛び込むうち一本の綱となった。魔弥矢は複雑に絡んでくる綱を搔い潜り甲板に乗り上げた自分がイルカの姿で驚いた。
海に戻ろうとバタバタしていると 先程の漁師たちが仕留めたイルカを担いで戻ってきた。いや、漁師ではない。鎌の怪人と小鬼の集団である。怪人が鎌を振り下ろしてきた。イルカがギィィィ――と悲鳴を上げる、と、同時に魔弥矢はジャンプした。
ある島の、崖の先端に立ちつくす一人の男。
男が持ち金全てをつぎ込んで手に入れた切符が運んでくれた地がここである。
男は日本酒が入ったワンカップの蓋を開けると一気に飲み干した。
男の足はスルスルと崖の端に進んで行く。脱ぎ捨てた上着の胸ポケットに「民宿かるべ」と云う文字が刻まれている。
飛び下りる事に迷いは見当たらない、が、崖から足が半歩宙に浮いた途端ドスンと云う衝撃が男を襲った。男はデンジャーゾーンと書かれた10メートル先の注意書きの辺りまで押し戻され尻餅をついた。
一体何が起きたのか解らぬまま辺りをウロウロ見回すばかりだったが、不思議なことに直前まで「死」に支配されていた男の気持ちが180度変った事である。
心変わりした理由は解らぬが 先程の衝撃で目覚めたのは確かである。
男は 「とりあえず死ぬのは今じゃない」と呟いて島を後にした。海側の遠くに見える灯りが揺れているのは 漁をしている船だろうか、と思いながら……
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