大切なもの
彩音
第1話 プロローグ
私には、誰にも言えない辛い過去がある。
痛い、苦しい、辛い。そんなことの連続だった。そのうち、そんな感情はなくなり、いつしか感情の出せない子に変わっていった。
私は知らなかった。愛とか家族とか。
そんなものは、知らない。
ただ待っているのは、過ぎゆく時間だけ。その時間を生きていくのが精一杯だ。
自己肯定感?そんなものなんてないに決まってる。私は役立たずだし、見てても醜いだけ。
こんな人間を好きになる人なんていないと思っていた、あの頃は。
でも、ずっと思っていた。なんにも取り柄のない私でも、何者かになれたなら、と。誰かを愛し、愛されることができたなら、と。
そんな私に、まさかこんな夢のような出来事が起こるだなんて。
きっと、昔の私は信じてくれない。
でも、今は言える、「私は幸せです。」と。
こんな私が彼と出会ったのは、四年前、彼のライブイベントがきっかけだった。
彼は、誰もが知っているであろう、超人気アイドルグループに所属している。
笑顔を振りまき、みんなが憧れるキラキラのアイドル、「Glitter」の売れっ子メンバー、「黒田蓮斗」。
アイドルは仕事柄、恋愛をしづらい傾向にある。そんな中で、どうして私と恋に落ちたのか。今でも不思議なくらいだ。
こんなこと、ファンやガチ恋勢は放っておかないだろう。だけど、それすら乗り越えて行ける、私達は大丈夫だと、信じてしまうくらいにその気持ちは次第に大きくなっていた。
この事実が世に出れば、炎上だけだは済まないかもしれない。でも、その覚悟は、最初からできていた。
あの日、私は「Glitter」のライブの映像デザインを担当していた。
普段はアニメーション映像の制作などをしているが、事務所のコラボにより、「Glitter」の映像を担当することになった。そして運良く、彼らと話す機会がたくさんあった。
まさか、この会話やライブがきっかけで、運命は動き出していただなんて。
大切なもの 彩音 @wkmk0506
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