幼馴染に告白したら、『友達のままでいよう』と言われた話
黒鋼
幼馴染みに告白した日
「お前が好きなんだ!」
「あ、そういうのいいから。ごめんね」
俺の告白は、一瞬で撃沈した。
目の前の幼馴染みは、いつもの軽い調子で俺をあしらった。
「あんたとは、そういうの無理だから」
「……無理って、なんでだよ!」
俺は思わず身を乗り出した。
けれど彼女は、興味なさそうに目線を逸らす。
「だってさ、恋愛とかめんどくさいじゃん。ほら、これあげる」
そう言って投げられたのは、昨日俺が貸した漫画だった。
「お前、俺の話聞いてるか?」
「聞いてるよー。告白されたってことでしょ。でもさぁ……」
彼女は、俺の方をちらりと見てニヤリと笑った。
「なんか、ときめかないんだよね、あんたには」
「うぐっ!」
なんて残酷な女だ。
俺は心の中で頭を抱える。
「せっかく恋愛するまたちゃんとときめきたいじゃん」
「……普段ガサツな癖に、意外に乙女なんだな」
「ガサツって言うな。当たり前でしょ。ほら、分かったでしょ? 諦めなよ。今の関係が一番楽しいじゃん」
彼女は俺の胸に軽く指を突きつけると、けらけらと笑った。
「……納得いかねえ」
「ほんと面倒くさいなー、じゃあこうしようか」
彼女は急にニヤッと笑い、指を立ててこう言った。
「お互い30歳になるまで相手がいなかったら、結婚してあげる」
「おい!」
ふざけるな、という俺の抗議を聞くでもなく、彼女はさらに畳みかける。
「それまでは友達でいいでしょ? あたし、今の方が気楽で楽しいんだよね」
「でも俺は……」
「でもじゃないの!」
俺の言葉を遮りながら、彼女がぴしゃりと言った。
「だってさ、あんたが恋人になったら、たぶん嫉妬とかしちゃいそうで嫌なの」
「……嫉妬って、お前が?」
「誰かに取られるのとか、考えただけで面倒くさいし……怖いじゃん、そんなの」
「そんなもんか?」
「そういうもんだよ。誰かが恋人になるってことは。だから、友達として。恋愛抜きで仲良くしてたいんだよねー」
そう言って目を細める彼女は、別に俺といるのが嫌じゃないらしい。
「……だったら、俺はどうすればいいんだよ」
「うーん、今のままでいいんじゃない?」
「……お前、本当に残酷な女だな」
俺が呆れると、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「どうせ目的はエッチなことなんでしょ。男って本当にすけべなんだから」
幼馴染が、呆れたように言い放つ。
「なっ、そ、そんなこと――!」
「え、違うの?」
俺の必死な弁解を軽くあしらいながら、彼女は冷めた目で俺を見つめる。いつもなら笑いながら流してくれるのに、今日は何か違う。
「だったらさ……触らせてあげようか?」
突然の一言に、俺の思考が止まった。
「は……? 何言ってんだよお前!」
「なにって、そのまんま。ほら、好きなんでしょ? 私に触りたいんでしょ?」
彼女はニヤリと笑いながら身を乗り出してくる。
「そ、そんなこと本気で言ってるわけ――」
「嘘に決まってるじゃない。本気にするな!」
彼女は笑いながらバシバシ俺の肩を叩いた。俺の赤くなった顔を見て、さらに追い打ちをかけるように。
「やっぱそういうのが目的なんじゃん。もう、バレバレだよねー」
「おいお前、からかうなよ! 人の気持ちを遊びみたいに――」
心底恥ずかしいのと、悔しいのとで、声が震えた。だけど、彼女の明るい笑顔を見ると、どうにも怒りきれないのが腹立たしい。
「だって、好きとか言われてもときめかないんだもん。ほら、諦めなよ」
「うぐぐ、それはなんか……」
俺は思わず言葉に詰まる。
本気の告白だったはずが、彼女のペースに振り回されて、気づけば振り出しに戻っている気がする。おのれ。
†
翌日、幼馴染はいつものように俺の家に遊びに来た。
「また漫画貸りるよ」
そう言って部屋に入ってきた彼女は、いつも通りの態度で俺のベッドを占有する。
昨日のことなんて気にしていないような振る舞いだったけれど、ときどき視線が俺を探しているような気がした。いや、気のせいかもしれないが――。
「……お前、昨日のこと忘れたのか?」
俺は呆れたフリをしながら言ったが、彼女は急に真顔になって俺の顔をじっと見つめた。
「覚えてるよ。……でもさ、どうして諦めないの?」
「それは……そんな簡単なもんじゃないだろ」
不意打ちの質問に、言葉が詰まる。彼女はそんな俺を見て、小さく笑った。
「本当に、諦めの悪い男だな。でもさ、そういうとこは嫌い……じゃな………かも」
そう言って、彼女は俺から目を逸らした。頬がほんのり赤く見えたのは、気のせいじゃなかったと思う。
「……お前、今なんて言った?」
「なんでもない!」
慌てたように言い返す彼女は、何か隠しているようだった。
「なんか怪しいな?」
俺が問い詰めると、彼女は急に立ち上がり、俺の頭を軽く叩いた。
「うるさい! あんたのそういうとこがムカつくんだよ!」
「痛っ! なにすんだよ!」
叩いた彼女は不機嫌そうにふくれっ面を作るが、すぐに肩を落として溜め息をついた。
「……ほんとはさ、ちょっとだけ思ったの。アンタのこと、恋愛対象に見れるかもしれないって」
そう呟く彼女は、いつもの軽口を叩く調子とは違っていた。一瞬だけ視線を落とし、唇を噛む。
「えっ、本当か?!」
俺は身を乗り出して問いかけたが、彼女はすぐに首を振った。
「でもね、怖いんだよ。もし、恋愛して失敗したらどうなるのかなって……今みたいに笑えなくなるんじゃないかって」
彼女の声は、どこか弱々しかった。
「お前……」
思わず言葉に詰まる。いつも明るくて、強気な彼女がこんな風に弱音を吐くなんて。
「だから、友達でいようって言ったの。……その方が、絶対いいと思うから」
そう言って、彼女は無理に笑った。
その笑顔がいつもよりぎこちなく見えたのは、俺の気のせいじゃないはずだ。
「俺は、お前と笑えなくなるなんて思わない。むしろ、今よりもっと笑わせたいって思うよ」
「……なにそれ、恥ずかしいこと言うなっ!」
彼女は顔を赤くして、そっぽを向いた。
「恥ずかしくても、本気だからな」
「……ほんと、アンタってしつこいよね」
彼女はまた溜め息をついたけど、どこか嬉しそうに見えた。
「ま、考えといてあげる。いつか答えを出すからさ……本当に、いつかね」
そう言ってそっぽを向く彼女に、俺は自然と笑みをこぼした。
まったく素直じゃない。
素直じゃないところも含めて惚れてしまったのが運の尽きなのだろう。俺は深くため息をつく。
その様子を見ながら笑う彼女はやっぱり可愛くて、俺はこの関係を諦めずにいようと思った。
幼馴染に告白したら、『友達のままでいよう』と言われた話 黒鋼 @kurogane255
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