第3話
昭夫が月光で働きだしてから、一年が過ぎた八月の公休日であった。彼は久し振りに故郷の
昭夫は
会社に休職願いを出したのであるが、本人の病気では無かったので認められなかったのである。父の怪我も治癒したので、彼は、宗像市にあるパチンコ店の【タイヨウ】に就職したのだった。両親はパチンコ店への就職には反対したが、中途採用の求職は厳しい時期だったのである。
「ただいま!」
畑に出て、
「あらあ、お帰り!久しぶりだぁね。今日はどうしたの?」
「うん。特別に用事じゃないけど、元気にしとるか見にきたんよ」
「ああ、ふたりとも元気にしとるよ」父の達夫は縁側に腰かけて、退屈そうに煙草を吹かしていた。
「
「
三人は縁側に腰かけて、西瓜にかぶりつきながら喋った。達夫は鼠色の作業服の上下に
「今、八幡のパチンコ店で働いているんよ」それを聞いた達夫が
「転勤になったのか?」と訊いた。夏美も昭夫の顔を覗き込んでいた。
「いや、前の所は辞めたんよ!」とこれまでの
「まあ、元気で働けていれば、それでいい。いよいよ困ったときには帰って来いや」と達夫は昭夫の目を見ながらポツンと呟いた。
昭夫は土産に持って来た『博多通りもん』の菓子折りを渡した。母が帰り際に、家で採れた
「はい、おみやげ」と言って渡して呉れた。昭夫はJR日豊本線の
誰かの忘れ物だろうか?と思った。彼の座席の周りには誰も居なかった。袋の中には、読み古した西日本スポ-ツ新聞と、白いマスクが二枚と、何かチケットの様な券が入った透明な小袋が見えた。昭夫は落とし主が困っているのではと心配したが、中身を覗いて、『なんだ!ゴミじゃないか』と腹が立った。仕方がないので、電車を乗り換えるついでに、ホ-ムにあったゴミ箱に捨てようとした。その際、念のために、今一度、ビニール袋の中身を出して確かめたのである。
まず、新聞を捨て、マスクも捨てた。さらに、一番下の底にくっ付いていた、小さな透明のビニール袋を捨てようとした。その時に、チケットのような券を改めて確認したのである。良く良くみると、それは宝くじ券だった。【サマ-ジャンボ】の宝くじ券だったのである。昭夫は落とし物として、八幡駅で降りた際に、駅前の交番に届けたのである。
その際、『どうせ、当たっていても末等の三百円だろう。でも、忘れ物なので、届け出る義務がある』と思ったからだった。スポ-ツ新聞とマスクを捨てた事は警察には説明した。でも、落とし主の特定はむずかしいだろうなと昭夫は思ったのである。
宝くじ券は連番で十枚あった。
警察では、【拾得物件預かり証】を手渡された。そして、三ヶ月経っても落とし主が現れない場合は連絡しますと言われたのだった。
下宿には、十八時半過ぎに帰り着いた。登美子さんに
「田舎の母からの土産です」と言って野菜の入った袋を渡した。
「まあ!ありがとう。良く育って、綺麗な野菜だわねぇ」と大変喜んでくれた。
翌日の木曜日も店のお客さんは、いつも通りの年金暮らしのお年寄りの常連が大半だった。台の稼働率もいつもと変わらなかった。
昭夫は金曜日も、また、休みだったので、小倉城まで出かけて、天守閣迄登ってみた。その後、松本清張記念館に立ち寄って、魚町銀天街でラーメンを食って、銀天街の中にあるパチンコ店で、一時間遊んだ。五千円儲けた。下宿には十九時に帰り着いた。
この日の夕食には
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