第4話 たーばこ

集合場所に着くと、まだ相手は来ていなかった。

寒くて暗くて心許ない私は、コンビニで2人分の暖かいお茶を買ってポケットへ突っ込んだ。

「寒い…。」

心もね。

「なんで私オッケーしちゃったんだろう。」

だよね、意味わからない。

「…早く来ないかな。」

初対面の男だぞ、大丈夫か?

自分の心と格闘すること早15分で相手の彼は集合場所にやってきた。

「お待たせしてすみません!寒いと思うんで、乗ってください!」

彼はスマートに助手席の扉を開いて、私を乗せてくれた。

私は彼の車に乗ると、ポケットからお茶を取り出して渡した。

「これ、少ないですけどガソリン代に。」

すると彼は、優しそうな表情で笑みを浮かべながら受け取ってくれた。

エンジンをかけると、有名なバンドの曲が流れた。

「私これ知ってますよ。」

「本当ですか?親が好きなんですよね。」

走り出した車の中では彼のするりとしたハンドルさばきとともに、たばこの煙が流れてきた。

「たばこ吸われるんですか?」

車内はたばこのにおいと芳香剤の匂いでよく分からず、私は思わず聞いてしまった。

「…たばこだめでしたか?」

彼は驚いた様子でたばこの火を消そうとしていた。私はその瞬間何故か分からないが、勢いよく食い気味で答えた。

「だめじゃないです。たばこ吸っている男性かっこいいです。」

彼は苦笑いしながら、また吸い始めた。

知ってる、この匂い。だってお父さんもヘビースモーカーだもん。

決してファザコンではないが、なぜか嫌ではなく安心する香りでもあるたばこの香りに私は、彼に対して少し胸がとくんとしていた。

日の出を見に行くために海沿いに向かう私たちを包み込むのは茜色の空だった。

「…空綺麗ですね。」

私がぽっと言うと彼は、少し沈黙したのちこう答えた。

「ん~あんまり分からないですね。」

分からないんかい、お前が。そう思ったが、私は口には出さずに少し愛想笑いをした。

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もう私は別れに恐怖を抱かない気がした。 れな @rena-0410

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