幸運値MAXの俺が最強のダンジョンハンター

結城からく

世界で最も幸運な男

 市役所から封筒が届いた。

 俺みたいな無職ニートをダンジョンの探索作業に徴集する法律が成立したらしい。

 一度の参加につき報酬は十万円。

 危険な仕事なんだろうが、タダ働きよりマシだと思う。


 数日後、指定された場所に向かう。

 そこにはダンジョン化した雑居ビルが建っていた。

 周囲は厳重に隔離されて許可なく入れないようになっている。

 ダンジョンの前には情けない雰囲気の集団が集まっていた。

 俺と同じ強制参加のメンバーだろう。


 しばらくすると係員の説明が始まった。

 全員でダンジョンに潜り、三時間かけて物資を集めるのが目的だそうだ。

 それで十万円なら割の良い仕事だ。

 ダンジョン内で死んだ場合の補償はないらしいが、報酬を考えれば妥当だろう。


 説明の後、大きな布袋を持たされてダンジョンに踏み込む。

 一歩目で電子音が鳴り、目の前にゲームっぽいメッセージが表示された。



[ダンジョンへようこそ]

[初期スキルを進呈します...]

[あなたはスキル【豪運】を取得しました]



 いきなりスキルを貰った。

 他のメンバーも驚いている者がいる。

 特にリアクションをしていないのは、過去にダンジョンに入ったことのある人間だろう。

 今回のスキルは初回特典のようなものと思われる。

 進呈されるスキルもそれぞれ違うと聞いたことがある。


 俺は額の辺りに意識を集中し、心の中で「ステータス」と念じる。

 するとさっきのメッセージと同じような形式で俺の能力が表示された。



筋力:7

体力:6

精神力:5

魔力:1

俊敏性:4

知力:6

幸運:9999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999999...



 引くほどバランスの悪いステータスだ。

 幸運だけ滅茶苦茶な数値になっているのは【豪運】の効果だろう。

 他の能力値は見事にザコだ。

 ネットの情報によると「一般人の平均能力値が10」らしいので、俺は平均未満の人間というわけである。

 自覚はあったものの、こうして数値にされると泣けてくる。


 参加メンバーが初期スキルに一喜一憂する中、俺は近くにあったパイプ椅子に腰かける。

 その瞬間、椅子が後ろにひっくり返り、床にぽっかりと開いた穴へと俺は落下した。


「おおおおおおおおおおおっ!?」


 突然の事態に叫ぶも、数秒後には柔らかい感触に受け止められる。

 落下したのは大きなキノコの上だった。

 こいつがクッションになってくれたようだ。


(無傷で済んだのも幸運の効果か?)


 キノコから下りた俺は、周囲の景色に固まる。

 その部屋には大量の宝物が置かれていた。

 金銀財宝や様々なアイテムが所狭しと並んでいる。


「隠し部屋ってやつかな」


 俺は宝物から高級そうな防具を手に取り、全身各所に装着していく。

 ダンジョンはモンスターが出現するそうだし、これくらいの備えはしておくべきだろう。

 見つけた宝は市役所に没収されるかもしれないが、ここを脱出するまでは俺のものだ。

 遠慮なく使わせてもらおうと思う。


 そうして装備を整えた俺は、仕上げに赤い日本刀を手に取った。

 かなりの重装備だが、不思議と身体は軽い。

 防具に何らかの魔術効果が施されているのだろう。

 まだ余裕があったので、金になりそうな物は布袋に詰めて背負う。


 準備を終えた俺は部屋の出口へと赴く。


「さ……三時間働くか」


 その後、完全武装した俺は手当たり次第にモンスターを倒し、一時間後には最上階のダンジョンボスを倒してしまった。

 武具の圧倒的な性能に加え、【豪運】のおかげで常に攻撃がクリティカルヒットとなり、敵を倒せばドロップアイテムがボロボロと出てくる。

 ここまでお膳立てされれば赤ん坊でもダンジョンをクリアできる。

 あまりにも優遇されすぎて拍子抜けしたほどだ。


 そんなわけで俺は、無職ニートから超新星のダンジョンハンターにジョブチェンジした。

 運だけでどこまで成り上がれるか分からないが、せっかくなので頑張ってみるつもりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸運値MAXの俺が最強のダンジョンハンター 結城からく @yuishilo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ