episode04:この日から恋を始めましょう
「大丈夫……ですか?」
白を基調にした消毒液のアルコールとシーツの柔軟剤が混じったなんとも言えない匂いの空間で、消毒を含ませた丸い綿を口元にできた傷口へとトントンと当てる。
「痛……っ」
「我慢してください」
「大丈夫って心配してたのは何」
「それは、傷の痛みについてです」
目の上で切り揃えられた前髪に、肩より長い髪の毛は耳元で二つに結ばれている。校則を守ったスカート丈、同じ学年色である赤のリボンタイを身につけているにも関わらず敬語。いかにも真面目といった雰囲気の生徒だ。
「保健委員って授業、サボって良いんだ」
「学級委員です。先生から戻って来ないあなたを見に来るように申し使って」
「…………あ、そういうこと。同じクラスか」
ということは、このクラスメイトはこの怪我の原因を知っているということになる。
「……もういい」
綿を挟んだピンセットを手で払うと、丸い椅子から立ち上がる。手で払った影響で上履きの横に綿が落ちた。
「よくありません」
彼女は落ちた綿を拾いテーブルの上へと置く。そして、ピンセットで新しい綿を挟むと、僕の傷へと押し当てた。
「った」
「ちゃんと手当して、傷直しましょう」
相変わらず消毒液は染みる。優しい言葉をかけながらも容赦なく押し付けるため、傷口はよりジンジンと痛む。
「別に……君には関係なくない?」
「関係あります。私、ずっと気になっていたんです。かえ……相坂くんのこと」
「……え?」
「……祈梨、朝倉祈梨です。名前覚えてください」
一方的に名乗っておいて、「覚えてください」と来た。なんで僕なんかにそんなことを。
そんな僕の疑問はすぐに解決ことになる。僕と彼女との壁を打ち砕くような言葉で。
「相坂くん。私と友達になってください」
「は?」
もし恋の始まりがあるとしたらきっとこの日が始まりだろう。
僕が初めて彼女を意識した、夏の始まりの日。
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