リリカルリリカ〜謎の少女と落ちこぼれパーティーの学園物語〜

@2konono

失くした宝物




キラキラ光ってビー玉みたいに綺麗な炎が、大きな川を埋め尽くすように、ユラユラユラユラ流れている。どこに行くのかな?向こうに行くと、無くなっちゃうのかな?


綺麗だなって眺めていたら、1つだけ特別可愛いのを見つけたんだ。


触っちゃ駄目って言われてたのに、どうしても触れたくて、思わず手を伸ばして捕まえちゃった。


手の中でフワフワ燃えて、やっぱりとっても可愛くて、宝物にしようってポケットに入れちゃった。


絶対無くさないように。誰にも見つからないように。ポケットをギュッと握りしめていたのに、いつの間にか消えちゃった。


ごめんね。ごめんね。あれからずっと、誰にも言えずに心の奥に仕舞い込んでるよ。








「学園長。例の件で、また保護者から問い合わせの電話がかかっています。どうしますか?繋いで宜しいですか?」


「またですかぁ??はぁ~~~...適当に理由をつけて留守って事にしてもらえますぅ?いやー、僕今考えなきゃいけない事が沢山ありまして、面倒くさい保護者の相手までしてたら、ほんと過労死しちゃうかも。」 


「はぁ。分かりました。後ほどかけ直すと伝えておきますね。失礼致します。」


「どーもどーも。」


内線電話を切ると、窓から差し込む夕焼けと共に、学園長室はシーンとした静寂に包まれた。

見ただけで上質な品だと分かる重厚感のあるデスクチェアに腰を掛け、先程の電話での適当な物言いからは想像出来ないような、洗練された身だしなみの男。ケルビンは、デスク越しに対面するように置かれたソファに腰掛けた少女に向かって声をかけた。 


「あなたのせいで、今うちの学園大変なんですよ?学園内に死体が落ちてたなんて、物騒な噂が流れちゃったもんですから!」


「先程から何度も質問していますが、なぜあんな所で死んだみたいに倒れてたんです?あなた、一体どこから来たんですか?本当は刺客か何かじゃないでしょうね?」

 

「嘘じゃないもん...。だって、本当に分かんないんだもん...。」


「はぁ~~~...。見たところ、あなたまだミドルスクールの年齢でしょぉ?大体どうやってこの学園に侵入したっていうんです?」







時は遡り、数時間前の穏やかな昼下がり。今日は珍しく何も問題が起きずに1日を終えられそうだ。お気に入りの紅茶でも入れて、後回しにしていた面倒くさい仕事を片付けていこうか。そう思い、ケルビンがケトルに手をかけたその時、胸ポケットの電話が二年生のクラスを受け持つクレイからの着信を知らせた。


「はい。お疲れ様です。ケルビンです。」


「学園長、至急医務室までいらして下さい。今すぐ走れ!!」


「え?いきなりなんです??申し訳ございませんが、只今手を離せない用がありまして...。」

 

「そんな用は無い!!学園内に侵入者が入ったようで、気を失っている所を生徒が発見しました。侵入者はまだ目を覚ましておらず、医務室に運ばれております。」


「はぁぁああ?!!侵入者?!うちの自慢の警備網を突破して??あり得ませんよそんなもの!!すぐ行きます!!」


ケルビンは急いで学園長室から飛び出すと、駆け足で医務室まで向かった。医務室までの道中にある中庭はいつもより賑やかな様子で、興奮冷めやらぬ生徒達の声が耳に入ってくる。


「まじでやばくない?殺人事件じゃん!」

「クラスのみんなに写真送っといたよー!」

「死体の写真撮るとかヤバー!」

「テレビの取材とか来るのかなー?」

「ママにこの事言ったらめっちゃ怒ってる!学園に電話するってー!」

 


「ひえ~~~!!!」

ケルビンは、思わず心の声が口から漏れた。

非常にめんどくさい事になりそうだと、中庭の光景で瞬時に理解出来た。

「こらーー!!君達!!学園内のトラブルを面白可笑しく噂や拡散するのは止めなさい!まだ事の全容も分かっていないでしょうが!!君と君と君と君もっ!担任にチクリますからねぇ!!」


「うわぁっっ!!」

「逃げろ!ちくられるぞ!」


生徒達は、散り散りに逃げ去って行く。しかし、時すでに遅しだろう。何名かの面倒くさい保護者から、すぐに確認やクレームの電話が入るに違いないと、胃が痛み始めた。


医務室に到着すると、1台のベッドを挟み立っていた保険医ウィルとクレイが、学園長の方に顔を向けた。


「やっと来たか!遅かったわりに、汗まみれだな...!これが例の侵入者です。」


「辛辣過ぎません?私が学園長って分かってます?

って!え?!子供じゃないですか!」


目の前のベッドに寝かされている少女は、肩まである漆黒の髪に、着古したような真っ白なワンピースを着ていた。酷く痩せっぽっちな小さな身体で、犯罪目的で学園に侵入してきたような姿には見えなかった。


「はい。特に武器等も所持していません。しかし、一体どうやってここに入ったんだ?なぜ気を失っていたのかも気になりますし。」


「ウィル先生、この子の状態は?」


「バイタルの異常や外傷等ありません。少し栄養状態は悪そうですが...。しばらくしたら、目を覚ますと思います。念の為、必要そうな点滴等で処置しましょうか?」


「ええ。お願いします。しかし、本当に何なんでしょう。あーーー面倒くさい!!ウィル先生!逃げられでもしたら大変なので、目を覚ますまで見張っておいて頂けますぅ?そして、ここは生徒も多く出入りしますので、目覚め次第僕の部屋に連れてきて下さい。そこで話を聞きましょう。」







そして現在。目の前の侵入者は、小さな手をキュッと握りしめて、泣き出しそうな顔を俯いて隠しているように見えた。


ケルビンは、本来ならすぐにでも警察に突き出してしまいたかった。


「困りましたねぇ。目の前でそんな泣きそうにしょげられると、ここから放り出す事も出来ませんし。しょうがない。必要な手当ては済んでいますが、もう一度今の状況を保険医に相談しましょうか。」

 


はぁーーー。っと深いため息をつき、椅子から立ち上がって少女の隣で立ち止まり「行きますよ。」と促すと、少女も後ろから小さな足跡を響かせて歩き出した。





「ほぉぉぉお!ほぅほぅほぅほぅ!!ほぉおおおお!!!」


ウィルは、学園長の疲れや不機嫌な様子を感じ、必死に記憶喪失なんて!!興味深い!といった心の声が表情に漏れないように、深刻そうな表情を作ろうとした。


「隠しきれていません。ニヤニヤするなんて不謹慎な御人だ!僕、こんなに困ってるのに。」


「バレてましたか?失礼しました。そして、先程もお伝えしたように、大きな怪我等無いか身体検査もしましたが、頭を撃った等外傷はありません。」


「頭をぶつけた衝撃等が原因では無いようですね。しかし、いくら記憶喪失でフラフラと彷徨っていたとしても、そのまま学園に入り込んでしまった。というのは、うちの自慢の警備網を考えると、まず無理でしょう。」


「もしかして、生徒が持ち込んだ可能性が?」


「いやまさか!鞄に入れて?誘拐したとでも?うちにそんな物騒な生徒がいるみたいに言わないで下さいよ!!」


「だって、品行方正と言える生徒ばかりでは無いでしょう?しかし、この子の身元も気になりますが、記憶を取り戻すまでどうするかですね。」


「そこなんですよ!!このまま放り出して行き倒れでもされたら、学園の評判がっ!!それに、もしどこかのご令嬢なら寄付金も!!いや、失礼しました。冗談ですよ!!!ですので、数日は保護しても良いと考えています。学園内で何か悪巧みをしようとしても、この中ではそんな事出来るはずもありませんし。」


「考える事が最低ですね...。しかし、この子の身元が分かるまで保護してあげるのは賛成です。捜索願いが出ていないか、保護施設等に連絡も入れてみます。」


「とりあえず、職員の当直室を一部屋使いましょうか。」


「君、それでも構いませんか?」


ケルビンは、ベッドに腰掛けて黙って話を聞いていた少女に向かって声を掛けた。

少女は少し顔を上げてケルビンと目を合わせると


「うん。先生、助けてくれてありがとう。」


と、小さな声で返事をした。

ケルビンは、疲れと共にフゥ~っと息を吐き出すと、


「ではウィル先生。後はお願いしますよ!僕、面倒くさい保護者の対応をしに自室に戻ります。あー、可哀想。」


と、大袈裟な表情を作り、コツコツと上品な靴音を鳴らせて部屋を出て行こうとした。しかし、クルリと振り返り、


「そういえばウィル先生!最近の若者は倫理観が欠如し過ぎてませんかぁ?数名の生徒がこの子が倒れている様子をパシャパシャ写真に撮って、あろう事か保護者や学園外部の友人等に面白可笑しく送りつけたみたいなんです!そのせいで、学園に死体が落ちていたと騒ぎになり、勘違いした保護者達からクレームが..。ほんと僕泣きたい!」


「あははっ...。それは胃が痛くなりそうだ。心中お察しします。」


ウィルは、そんな事やりそうだな...という何名かの生徒の顔を思い浮かべて、苦笑いを作った。

そして、今度こそケルビンが退出したのを見て、体調不良の生徒の為に冷蔵庫に常備している栄養補助食品をいくつかと、ミネラルウォーター。それから、自分の空腹時の軽食にと自宅から持って来たリンゴを紙袋に詰めた。


「さて。君も、色々な事があって疲れたでしょう。今は、静かな場所でゆっくり眠った方が良さそうだね。学園長はあんな物の言い方だけど、何も分からない君を途中で放り出すような、薄情な人では無いから安心してね。」


少女はコクンと頷いて、部屋を出ようとしているウィルの後を追う為に立ち上がった。

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