宇宙に属さない領域で、夜那は生まれたの。

健野屋文乃(たけのやふみの)

悪しき幻想を滅ぼす事。

表示されていた数字が、998から999に変わった。


宇宙に属さないこの領域。1つの生き物が生まれた。

夜那よなと呼ばれるその生き物が発する圧倒的な力を、もしあなたが見たのであれば、死神を連想するだろう。


1つの生命が生まれたにも関わらず、誰もいないこの領域では、何の音もしなかったし、誰もその生き物の誕生を祝福したりはしなかった。

仮に誰かいたとしても、それは変らなかっただろう。


生まれたばかりだが夜那よなは、自分が何をするべきなのか知っていた。


もう日が昇る事のない世界を滅ぼす事。

悪しき幻想を滅ぼす事。


誰かが命令を下したわけではない。

ただ表示された数字が998から999に、そしていずれ1000に変わると言う事実だけが存在した。


夜那よなは、飛び立つために大きな翼を広げた。

それがどれだけの大きさか、この宇宙に属さない領域では、対比する者が何もない。


大きな扉が開き、バサッと羽ばたく音だけが響いた。

夜那よなは、生まれて初めて空を飛んだ。


大空を飛ぶ心地好さを、身体が感じていた。


深い森を抜けると平原に出た。

平地には街があり、多くの建物が建っていた。

その一つ一つが世界なのだろう。


その中に悪しき幻想の世界を思わせる建物が見えた。

見るからに悪しき輝きを放っていた。

夜那よなは、その世界へと突入した。


「あれ、おかしい」

夜那よなは、呟いた。

悪しき幻想の世界では、日が昇り新しい1日が始まろうとしていた。


「なんだ、そう言う事か」


表示された数字は、999から1000には変わらず、998へさらに997へと変っていた。


「そう言う事もあるんだ」


太陽が姿を現し始めると、夜那よなを、構成する粒子が崩壊し始めた。


「やれやれだよ」


夜那よなにとって、死は意味をなさない。

夜那よなは、死の意味を知らないから。   





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宇宙に属さない領域で、夜那は生まれたの。 健野屋文乃(たけのやふみの) @ituki-siso

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