尾張の市場は日々の賑わいを増し、信長の掲げる改革はゆっくりと形になりつつあった。蕎麦や大豆といった新しい作物が市場に並び始め、村人たちはその成果に驚きと感謝の声を上げていた。

しかし、その繁栄の裏で、一人の男の体調が悪化していた。織田信秀――信長の父であり、尾張の支配者。彼の体に現れた変化は、やがて織田家全体を揺るがすことになる。

改革の進行と信長の懸念

信長は丘の上から尾張の市場を見下ろしていた。商人たちが行き交う様子に満足げな表情を浮かべていたが、その横顔には一抹の不安が見え隠れしていた。一真がその様子に気づき、声をかける。

「信長様、何かお悩みですか？」

信長はしばらく黙った後、小さく息をついて答えた。

「一真、俺の父、信秀の体が思わしくない。」

一真は驚いた表情を浮かべた。信秀は尾張の力を築き上げた武将であり、織田家の礎そのものだ。

「それは……どんな症状なんですか？」

「咳が止まらん。体も痩せ細り、食も進んでいない。」

信長の声には焦りが混じっていた。信長にとって信秀は偉大な存在であり、織田家を守るために欠かせない人物だ。

信長からの依頼

「一真、あの機械で何とかならんのか？」

信長はAIデバイスを指差しながら言った。その目には切実な願いが込められていた。一真は少し考えた後、AIを起動する。

「信秀様の症状を詳しく教えてください。」

AIの冷静な声が響く。信長は簡潔に症状を説明した。

「頻繁な咳と倦怠感。体重が落ちており、ここ数ヶ月で急に老け込んだ。」

AIは症状を分析し始め、少しの間を置いて回答した。

「信秀様の症状は、肺疾患または感染症の可能性が高いと推測されます。」

一真は眉をひそめた。当時の医療技術では、こうした病気は命取りになることが多い。だが、AIの知識を使えば治療の可能性があるかもしれない。

農地改革の進行と葛藤

その後も信長は農地改革を進める中で、信秀の病への対処を考え続けていた。新しい市場や作物の導入が成功しつつある今、父の支えがなくなれば織田家そのものが揺らぎかねない。

「父がいなければ、尾張を守る力が足りぬ。今の俺ではまだ十分ではない。」

信長は一真にそう漏らした。

一真は信長の肩に手を置き、真剣な表情で言った。

「信長様、信秀様を助けるためにできる限りのことをします。そのためには、信秀様を直接診る必要があります。」

信長は頷き、信秀がいる城へと一真を連れて行った。

信秀との対面

城の奥で信秀は床に伏していた。以前の威厳に満ちた姿は影を潜め、やつれた体が布団の中に横たわっている。信秀は目を開け、一真を見つめた。

「お前が信長が連れてきたという奇妙な男か……。」

信秀の声はかすれていたが、その目にはまだ力が宿っていた。

一真は深く頭を下げ、AIデバイスを取り出した。

「信秀様、私の持つ知識で、病の原因を探りたいと思います。」

信秀は少し笑みを浮かべた。

「面白い……。信長が信じるものなら、試してみるがよい。」

AIの診断と治療案

一真はAIに信秀の体温、脈拍、呼吸の状態を測定させた。画面に表示されたデータを元に、AIが分析結果を伝える。

「信秀様の病状は、結核または慢性肺疾患の可能性があります。栄養補給と安静が必要です。また、呼吸を助けるための環境改善を推奨します。」

「結核……。」

一真は小声で呟いた。当時の時代背景を考えれば、この病は致命的になりかねない。だが、AIが提案する治療法を実行すれば希望はあるかもしれない。

「まずは信秀様の食事を改善します。体力を回復させるために、栄養価の高い食材を使った粥を作らせてください。また、部屋の通気を良くし、清潔な環境を整えます。」

信長は一真の提案に深く頷いた。

「よし、それを急ぎ進めろ。」

治療の始まり

信秀のために特別な食事が用意され、部屋の環境改善が進められた。一真は農地改革の一環で導入された大豆を使った栄養粥を提案し、それが信秀の回復を助ける一因となった。

数日後、信秀は少しずつ体力を取り戻し始めた。咳の頻度が減り、食欲が戻りつつあった。信長はその変化を見て、心から安堵の表情を浮かべた。

「一真、これが未来の力か……。」

信長の言葉には感謝と驚きが込められていた。

信秀の覚悟と信長の決意

信秀は少し体調が良くなると、信長を呼び寄せた。

「信長よ、お前が進めている改革……俺には到底真似できぬものだ。だが、お前ならばやり遂げられる。」

信長はその言葉に深く頭を下げた。

「父上、俺が尾張を守り抜きます。あなたがまだこの家を支えてくだされば、それが可能です。」

信秀は微笑みながら答えた。

「ならば俺は生きる。お前が天下を取るまで、この目で見届けよう。」

新たな試練の始まり

信秀の病が回復に向かい始めたことで、信長は再び改革に全力を注ぎ始めた。だが、それは新たな敵や試練を呼び寄せる序章に過ぎなかった。