尾張の小高い丘から、広がる村々を見下ろしていた一真は、信長の視線の先にある未来がどのように映っているのかを考えていた。周囲には質素な家々、曲がりくねった道、そして荒れ果てた田畑が続いている。

「この地を変える。」

信長の言葉は静かだったが、その中に揺るぎない決意が込められていた。一真は肩越しに振り返ると、彼の顔を見つめた。

「市場と道路を整備することで、この土地の可能性は大きく広がるはずです。でも……問題は多い。」

一真はAIデバイスを手に取り、地形データと人口分布を表示させた。信長はその画面を覗き込むと、感嘆の声を漏らした。

「この図は……まるで天の視点のようだな。」

「未来ではこうやって土地の状況を分析して、最適な計画を立てるんです。」

信長は頷き、村の方角を指さした。

「ならば、その知恵を示せ。この市場と道路の計画が、いかにして尾張を豊かにするのか。」

市場整備の提案

一真はまず、市場の重要性を説明した。

「村人たちは自分たちで作った米や野菜を、そのまま消費するか、豪族に納めるだけで終わっています。でも、市場があれば農産物や手工業品を取引できるようになり、より多くの物資が循環するようになります。」

信長はその説明に耳を傾けたが、一部の家臣たちは疑問を呈した。

「市場を作ると言うが、商人どもがその場所に集まる保証があるのか？」

「村の農民が市場に行くだけの余裕があるとも思えぬ。」

確かにその通りだ、と一真も考えていた。この時代の人々に市場の概念を浸透させるのは簡単なことではない。だが、一真はすでにAIの分析結果を基に対策を用意していた。

「市場の場所を村の交差点付近、つまり複数の村が行き交う要所に設置します。また、初めのうちは商人に特別な取引権を与え、積極的に利用を促す仕組みを作ります。」

信長はその案に賛同した。

「なるほど、商人たちを引き寄せ、村人たちの意識を変えていくというわけか。だが、それだけでは足りぬ。市を守るための兵も必要だろう。」

信長の洞察力に一真は驚きつつ、さらに計画を練り上げた。

道路網の拡充

次に一真は道路整備について提案した。彼が持つ未来の知識から導き出された考えは、道路を市場と村を結ぶ生命線とすることだった。

「この村々を繋ぐ道を整備し、馬や荷車が通りやすくするだけで、物資の流通が何倍にも効率化します。それだけでなく、兵の移動も容易になり、防衛の面でも有利になります。」

信長は地図を眺めながらしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「道を作るとなると、人手が必要だ。それに、豪族たちの土地を通る場合、奴らの反発は避けられまい。」

信長の指摘は的を射ていた。一真は、AIが弾き出した提案を基に答えた。

「道の建設には農民にも協力してもらいます。ただし、それを労役と見なさず、報酬を与えることで納得してもらいます。そして豪族の土地を通る場合には、信長様の直轄地として管理を移行する、という条件で交渉しましょう。」

信長はその案に満足げに頷いた。

「よかろう。だが、この計画は俺が思う以上の反発を生むかもしれん。それでも進める覚悟があるか？」

一真は少しの間だけ考えたが、すぐに答えた。

「未来を変えるには、大胆な行動が必要です。この時代の変革も、同じだと思います。」

実行への困難

市場と道路の整備計画が発表されると、早速反発が起きた。特に豪族たちが激しく反対し、「土地を奪われることなど到底受け入れられない」と声を荒げた。

「我らの土地を削るなど、信長様といえども許されません！」

信長はその場に座したまま、静かに彼らを見つめた。そして、声を低くしながら言った。

「その土地を使わねば、尾張全体が貧しさから抜け出せぬ。その結果、この地が敵に侵略されれば、貴様らの土地など何の意味も持たぬだろう。」

彼の冷静な言葉に豪族たちは黙り込んだ。一真はその光景を見て、信長が単に力で従わせるのではなく、言葉で説得するリーダーであることを実感した。

改革の成果

計画が実行に移されると、徐々に村々に変化が現れた。市場が開かれると、農民たちは自分たちの収穫物を売り、必要な物資を手に入れる喜びを知った。商人たちも集まり始め、市場は少しずつ活気を帯びていった。

道路の整備も順調に進んだ。初めて新しい道を通った村人たちは、その便利さに驚き、自然と感謝の言葉を口にした。

「これなら、隣の村まであっという間だ！」

「物を運ぶのが楽になったな。」

信長はその変化を見つめながら、一真に声をかけた。

「貴様の知恵が尾張を変え始めたな。この先の展開が楽しみだ。」

一真は微笑みながら答えた。

「これは始まりに過ぎません。これからも信長様が未来に向けて進むお手伝いをさせていただきます。」

信長は満足げに頷き、再び村の方角を見つめた。その瞳には確かに「天下布武」の光が宿っていた。

こうして市場と道路の整備が成功し、尾張は変革の一歩を踏み出した。しかし、これが新たな困難の始まりであることを、一真も信長もまだ知らなかった。