命令4、5. 中学生時代
詠太は
命令を下した天音も、もちろん一緒である。
受験前に天音に勉強を教えていたのは詠太の方だ。
――勉強教えた、オレが馬鹿だった……
と後ほど詠太は後悔する。
「ロボ研に入りなさい!」
中学に入ってから一つ目の命令は部活である。
――ロボ研って!?
何するの?その部活。
普通にマイナーじゃね?
そもそも詠太は算数と理科が苦手だ。
せめて、文系の部活にさせてくれ。
「なんで、ロボ研?」
「私が好きだから。あと犀馨学園のロボ研は全国レベルの強豪で、世界大会だって夢じゃない!めざせパリ旅行!!!」
と言われた。
「オレ、普通にサッカーしたいんだけど」
「じゃあ、兼部で」
思春期を迎え、天音との仲を周囲から
――オレは断じて、付き合っているわけではない!神野と。
そう心に決めており、詠太からは天音に接触しないようにしていた。
天音と正反対の女の子と付き合う。
そのチャンスは、中学二年の12月に訪れた。
それは他校との練習試合の帰りである。
「
私と一緒に帰ってもらえませんか?」
彼女の友だちである森に誘われてて、女子サッカー部に入ってきたと聞いている。
森は経験者だが、溝内にサッカー経験はない。
むしろ、体育は不得意に見える。たまたま目の前に転がってきたボールを蹴ろうと意気込んで、右手と右足が一緒に出て転ぶタイプだ。
――萌えの極み
そんな溝内は男子部員から人気の女の子である。
夏合宿の夕飯で圧倒的人気メニューだったのは、溝内朝陽作・焦げた何かの肉的なものだった。
そんな溝内のお誘いを断る理由は詠太にはない。
溝内でなくとも、かわいい後輩の誘いを断る理由があろうか、否ない。
迷わずOKし、ロボ研の活動にはほぼ行かず、サッカーに勤しみ、溝内と一緒に帰る選択をしていた。
「えーた、今年のクリスマスケーキはブッシュ・ド・ノエルを買って来なさい」
「今年は無理なんだよね、ごめん!」
一昨年から、天音おねだりされ始めたクリスマスケーキ購入命令の断り文句は決めていた。
さすがに中二で言えるとは思っていなかった。
「へー。なんで?」
「予定がある」
「どんな?」
「外出」
「私も行く」
「いや、それはちょっと……」
「私も連れていきなさい」
「拒否する」
「………………」
「………………」
「誰と?」
「後輩」
「溝内さん?」
「………………」
詠太は無言を貫くつもりだ。
天音の視線が痛くとも、いつかは必要な試練である。
二人で無言でいること、約10分。
「えーた、溝内さんと付き合うのを禁止する」
「拒否します」
「えーたは、私に絶対服従、誓ったよね?」
「子どものときだろ!?」
「今も子どもですが、何か?」
「だから!何年前の話だよ!?……て、数えなくていいから!!!
てか、オレは溝内と付き合いたい!オレは溝内が好きだから!!!」
「なおさら、溝内さんと付き合うのを禁止する!」
「なんでだよ!?」
「私が嫌だから」
「関係ないだろ!」
「ないよ」
「じゃあ、いいだろ!!!」
「嫌」
「知らん!オレは溝内と付き合う!お前の命令は聞かない!!!」
しばらく間を置いて、天音が口を開いた。
「えーたは私に、服従しないってわけね?」
「……そう、だよ?」
「溝内さんがどうなってもいいわけね?」
「いや、溝内関係ないじゃん!?巻き込むなよ!!!」
「嫌」
「だーかーらー!オレ、お前のそういうとこ、嫌いなんだよね」
「知らん!私は溝内さんをシバく!えーたの命令は聞かない!!!」
「ちょっと待て」
「私のものは私のもの、えーたのものは私のもの」
「何、そのジャイアン?」
「えーたとのび太って似てるよね」
「三文字中二文字違う」
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