「10」「羽」「命令」
藍銅紅@『前向き令嬢と二度目の恋』発売中
「10」「羽」「命令」
「じゃあ、次回の漢字の10問テストは三十八ページから出すからな。ちゃんと練習して来いよ。8点以下は居残りで再テストだぞ」
塾の先生からの宿題の指示は、まるで命令だ。嫌になる。
そりゃあ、受験を勝ち抜くためにはちゃんと漢字練習して、おぼえないといけないけど。
10点満点を取らないと再テストじゃなくて、8点で合格なんて、甘いけど。
だけどなあ……。
取れと言われて合格点が取れるなら、誰も苦労はしないんだ。
別に漢字なんて覚えなくてもいいじゃん。
全部ひらがなでいいじゃん。
意味は通じるんだし。
そう言ったら親も先生も言うんだ。
「全部ひらがなの文なんて読みにくい。それに受験では1点差が合否を決めるぞ」
……まあ、そうだけど。
なんかやる気が起きなくて。練習もしないで。家ではゲームしてマンガ読んで。
塾の日になって、あ、ヤバイ。漢字練習全然やってなかった。ま、いいや。早めに塾に行って練習すれば。
そう思ったのに。
うっかり塾の友達と喋っていたら、漢字テストの時間になった。
練習しないまま。テキストを開くことさえしてなかった。
仕方がない。潔く再テストを受けるか。
初めから、あきらめて、テキトウに漢字を書いた。
先生は、立ったまま、漢字テストに赤ペンで〇×をつけていく。
「おーい。傍線引いてある所だけじゃなくて、ちゃんと文章読めよなー」って先生に言われた。
漢字テストを見た。
「雨だからかっぱを着る」という文の「かっぱ」のところに傍線が引いてあって。
解答用紙には「河童」って書いたんだけど、ちがったのかな。
「河童なんて、どうやって着るんだよ」
先生がおもしろそうに笑った。馬鹿にしたとかじゃなくて、予想外の答えだっていうみたいに。
ん? かっぱって言ったら妖怪の河童しか知らないんだけど。
「雨の日に着るって言ったら合羽だろ?」
「先生、合羽ってなんですか?」
「へ? あー、最近はカッパなんて言葉、あんまり使わないかー。レインコートだよ」
へー。知らなかった。
とりあえず、大人しく再テストを受けて。
今度はちゃんと合羽と書いた。
ついでに、テスト用紙の余白のところに、レインコートを着た河童のラクガキを描いてみたら。
先生は赤ペンで花丸を書いてくれた。
終わり
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「お題で執筆!! 短編創作フェス」のお題が「10」「羽」「命令」だったので、三つ含めて書いてみた。
「10」「羽」「命令」 藍銅紅@『前向き令嬢と二度目の恋』発売中 @ranndoukou
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