走る/消える
遠藤みりん
第1話 走る/消える
私は、夜走る。
40代も目前になり、少し体を気遣おうと思った事がきっかけだ。
夜走る理由は、明るい昼に走ると人の目がどうにも気になってしまうからだ。
もちろん、誰も私を見ている人なんていないのはわかっている。
夜の風はとても気持ちが良く、中年にも関わらず、つい走り過ぎてしまうこともよくある。
走るコースはいつも決まっている。国道沿いを真っ直ぐ走り、公園をぐるりと一周する。
車のライトは幻想的で昼間とは別の顔を見せてくれる。
公園には人工的に植えたであろう木が生い茂り、軽い森のようだ。
この公園をぐるりと一周し、家に帰るとおよそ、3キロ程になる。
私はこの公園が大好きだ……
夜の森に誘われるような錯覚を覚え、走らない日はどこか気持ち悪くさえ思う。
近頃、走っていると奇妙な事が起こる。国道から公園に入り、しばらく走っていると目の前に、私と同じく走っている人を見かける。
いつも私の20メートル程先を走っており、スポーツウェアを来た細身の男性だ。
夜の為、はっきりとした姿は確認する事が出来ないが公園の街灯に照らされ、なんとかその姿を見る事ができた。
いつの頃から現れたのだろう?今となっては毎夜、必ず見かける。
私は走る時間までは決めていない。その時その時の気分で走りにいく。
不思議な事に毎回、あの走る男性と遭遇するのだ。
私は妙な親近感を覚え、顔を見てみたくなった。どうにか追い抜き、挨拶してみようと走るペースを上げても何故か追いつく事が出来ない。
私は毎夜、毎夜、追いつこうと試みるが20メートル程の距離が一行に縮まる事はない。
何故だ?もしかしたら相手も私の存在に気づいており、距離を空ける為にペースを調整しているのだろうか?
いや……男性が振り返った事などないし、気づいている様子もない。私はもどかしさを抱えながら走る。
この男性に対し、もう一つ不思議な点があった。この公園のブランコを少し過ぎると大きな木がある。
植えられたにしてはとても立派な木だ。もしかしたら元からある木なのかもしれない。
男性がこの辺りを走ると消えてしまうのだ。街灯に照らされた木の影を通り過ぎる前に消えてしまう。
まるで木の影に吸い込まれたような錯覚に陥る。
ある日、私は男性が消える木の周りを調べる事にした。
どこかに抜け道があるのではないか?そこから公園を出ていくのではないか?大きな木の影で休んでいるのではないか?様々な推理をしてみたが。
確認してみても抜け道も休めるような場所も見当たらず、私の疑問はさらに深まるばかりだった。
ある日の事だ……
その日、私は仕事が長引いてしまい日課のジョギングをせずに早々と寝てしまった。
夜明け前に目が覚めてしまい、どうしても走りたくなった。
まるで誰かに強く呼ばれているような気分だ。
トレーニングウェアに着替え、国道を抜け公園を走る。
走っていると次第に空は明るくなる。朝に走るのも悪くない。いつもと走る時間帯が違う為かいつも遭遇する男性も見当たらない。
ブランコを通り抜け、いつも男性が消える大きな木の下を通ると顔に液体が降り掛かる。
(雨かな……?)
私は木の下で立ち止まり空を見上げた。雨は降っている様子はない。
早朝の薄明かりに照らされた木の茂みを覗いてみる。朝に見ると、この木も別の顔が見えてくる。
さらに木の奥を覗いてみると、何かが吊り下げられていた。
(何かな……?)
私は身を乗り出しさらに木を覗く……
吊り下げられていたのは人間だった。トレーニングウェアを着た細身の男性……いつも夜に見かける、あの男性だ。
雨だと思っていたのは男性の体液だった。吊られた首もだらりと伸びている。私は声も出せずに腰を抜かしてしまった。
震える手で通報し、警察へ事情を説明し帰宅した。その日は眠る事は出来なかった。
その日以来、走る事を辞めた。首吊り死体を見つけたショックからでは無い。
走らないと気持ちが悪くなる事もないし、夜の森に誘われるような錯覚も無くなった。
もしかしたら、あの男性は見つけて欲しいと私を呼んでいたのだろうか……
走る/消える 遠藤みりん @endomirin
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