昭和のあの骨なんの骨?

青樹空良

昭和のあの骨なんの骨?

「最近、スマホで昔の漫画とか読んでみてるんだけどさ。なんで昭和の犬ってよく骨くわえてるんだろうな」

「あんまり読んだことないけど、わかるわかる。なんか、そういうイメージあるよな。あの、マンガ肉の骨の部分だけみたいなやつ?」

「そう、それそれ! なぜか、餌入れる皿にまで骨だけ入ったりしててさ」

「なんだそれ、イジメ? 食うとこ無いだろ!」

「だよなー」


 中学校から帰る途中、俺は幼なじみの拓也たくやとどうでもいい話をして笑っていた。


「俺は見たことないけど、あんな骨くわえた犬なんて本当にいるのかよ」


 拓也が笑いながら言って、俺は答えた。


「昭和にはいたんじゃね?」

「いやいや、昭和でもいないだろ。そういう演出じゃね? つーか、あの骨って一体何の骨なんだ?」

「確かに」


 なんの骨とか具体的には考えたことがなかった。漫画によく出てくるああいう骨、という認識しかない。


「ま、あれも一種のファンタジーだよな」

「だなー……、っておい! アレ!」


 拓也が急に俺たちが行く先を指さして叫ぶ。


「なんだよ、急に……。って、本当にいたーーーーーーーーー!」


 俺も拓也の指さす先を見て、思わず叫んでしまった。

 そこには、いたのだ。

 本当に、いた。

 漫画に出てくる犬がくわえているような骨をくわえた、実在の犬が。


「実在、したのか……」

「マジでか……」


 あまりのタイミングの良さというか、漫画的な展開に俺と拓也は顔を見合わせてゲラゲラ笑った。

 だって、本当にいるとか思わないじゃないか。

 犬は野良犬なのか、どこかから抜け出してきた犬なのか飼い主らしき人は近くにいない。骨をくわえたまま道ばたに座り込んで、くつろぎ始めた。


「つーか、アレ、本当になんの骨なんだ?」


 ひとしきり笑った後、拓也が言った。

 俺は首をひねる。本当に漫画っぽい骨! という感じの形の骨だ。


「んー、誰かが豚骨スープでも取った後の骨なんじゃね?」


 拓也は犬にこれ以上近付かないようにか、足を止めて目をこらしている。


「俺、前にじいちゃんの葬式で焼いた後の骨、見たことあるんだけど……。それにちょっと似てるんだよな」


 ぼそりと、拓也は呟いた。


「ちょ、ちょっと待てよ。縁起でもないこと言うなよ」

「だよな。普通に歩いてる犬が人の骨をくわえてるとかあるわけないよな」


 拓也も不吉な発言を笑い飛ばすように明るく言って、今度はちょっと乾いた笑いのまま俺たちは顔を見合わせた。


「でも、なんか気になるし警察に話してみるか? 近くの交番、行ってみようか」


 おずおずと拓也は提案する。本気で気になっているようだ。


「そうだな。ただの動物の骨でしたーとかなって、新聞の地域欄で近所の小さなニュース的な記事に載ったりするかもな」

「絶対クラスのヤツらに俺たちだって特定されて笑われるやつだろ、それ」


 コミカルなイラスト付きの笑える記事になったところを想像して、俺たちは再び笑う。


「ま、一応行ってみるか。交番」

「だな」


 交番は少し通学路を外れたくらいの場所にある。気になったことを話に行くくらい、寄り道禁止のうちの中学でも先生から怒られることはないだろう。

 俺たちは、犬がまだ骨をくわえたまま座っているのを確認して交番に向かうことにした。


「どうせ、笑い飛ばされるだろうけどな」

「昭和の頃なら、よくある光景だったとか言って、そんなことでいちいち来るなって怒られるかもな」


 なんて笑う俺たちはまだ知らなかった。

 あの犬がくわえている骨が実は未解決殺人事件の、まだ発見されていなかった被害者の骨だということを……。

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昭和のあの骨なんの骨? 青樹空良 @aoki-akira

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