第14話 真犯人
金曜日の夕方。
東京湾を周遊して食事を楽しむディナークルーズを前もって予約していた。
週末とあって予約を取るのが厳しかった。
だが、友人の誕生日を祝いたいと嘘をついて、船側に都合をつけてもらった。
「お客様、そちらのお荷物はこちらで預からせてもらえますか?」
「あー、これはダメだよぉ。女の子へのプレゼントが入ってるんだもん」
「失礼しました」
本庄がやけに大きなリュックを背負ってやってきた。
プレゼントで女子を落とす作戦か?
残念だが、お前の評判は地の底まで落ちているから物なんかでは誰も釣れないぞ?
ディナー会場はそれぞれ個室になっていて、50人以上も入る大きな会場から今日予約した数名で借りられる小さな会場もあった。
東京湾の夜景を見ながら、次々と出てくるコース料理に舌鼓を打つ。
「プレゼントの準備があるから、窓の外でも見ててキヒっ!」
語尾がヤバい。
メインディッシュの後のデザートを前に本庄が俺たちを窓側に追いやる。
窓を開けて潮風を浴びながら東京の夜景を海から眺める。
「じゃーん、プレゼント」
水瀬さんと咲良へのプレゼントだそうだ。ちなみに当然、男にはなさそう。
デザートを食べた後に開けてほしいと本庄に言われ、デザートを楽しみながら、しばらく談笑が続いた。
「あれ? なんかフラフラする」
「えっ、私も……」
デザートはスタッフが下げて、飲み物だけがテーブルの上に残されている。
本庄がこれからイベントをやるので、降船時間になるまで部屋に入らないようスタッフに伝えた。
「キヒヒっ、効いてきた♪」
本庄のどこまでも薄汚れた下品な笑み。
「なにをするつもりだ?」
「あれー、甲田きゅんは効いてない感じ?」
先ほど窓側に追いやられた時、窓の端に立ち、反射する窓で本庄が飲み物に何か入れるのを見た。飲み物に口をつけるフリをして一滴も飲まなかった。
「これから俺という優秀な
箱のリボンを解くと、いわゆる大人のオモチャがたくさん詰められていた。
「ねえ甲田きゅん、お母さんが死んじゃってどんな気分だった?」
「は? お前はどうなんだ。妹が亡くなって、かなり歪んだみたいだが」
「紗和が死んでも実はそんなに悲しくなかったよ」
それは嘘だ。
告別式に見た魂の抜け殻のような姿を俺は目撃した。
「俺はねー、怒ってるんだよ。お前みたいなクソ雑魚にいいようにされたのが頭に来て気が狂いそうだったよ」
本庄は笑いながら、咲良のブラウスの襟元を無理やり引き裂き、白い双丘を露出させた。
「目の前でこの
頭のおかしい本庄は、クネクネと動くオモチャを咲良の口に挿し込み、出し入れをしはじめた。
「本庄」
「なんだい、甲田きゅ……がはっ!」
俺の渾身の右ストレートが本庄の頬にめり込み吹き飛ばす。
「……痛いよ、すぐに死にたいのチビ?」
「やれるもんならやってみろよ」
壁に手をやり、ゆらりと立ち上がる本庄。
昨日、本庄に急に背が伸びたのは厚底の靴でごまかしてるからと嘘をついた。
だが、ヒールじゃないんだから、そんなんで10センチ以上も高く見せられる訳ないっつーの。
身長推定180センチちょっと。全身ムキムキだが、俺だって負けていない。
殴り合うこと数分、顔を腫らしながらも本庄に殴り勝った。
喧嘩になる前から勝負はついていた。
俺はこうなるかもしれないと前もって準備してきた。
左手にはズレ止めのついた、ごつい腕時計。右手首には200gのリストバンドを仕込んでいた。パンチ力は質量と加速度で決まるので、しているのとしていないとでは段違いの差が出てくる。お腹や肋骨はアメフト選手が着るパッド付きコンプレッションシャツを専門店で買って大きめのジャケットの下に着こんでいたので本庄の重い拳をだいぶ吸収してくれた。あとは素人同士の殴り合いなので打たれ強い方が勝っただけのこと。
ビジネスバッグに入るくらいの細いロープとナイフを自分のカバンから取り出し、ナイフでロープを切って本庄を縛り上げた。
「えーと110番、110番っと」
切った残りのロープとナイフをテーブルにおいて、スマホの電波がもっとも入りそうな窓側まで行って電話をかけようとする。
「甲田さん、ありがとうございます」
「──っ!?」
背後から声が聞こえたので振り返る。
そこにはロープで縛られた本庄の首にナイフを当てた水瀬染毬がいた。
できればホームで突き落とされた瞬間、振り返って垣間見たのは見間違いであってほしかった。
お礼を言われたのは、本庄を無力化したため。そういえば咲良が先にフラフラすると言うのを聞いてから後を追った形だった。彼女も本庄が仕込んだ後、飲み物に口をつけなかったってことか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます