第13話 前夜
「ちゃーっす! 本庄拓弥、ただいま戻りました!」
誰かに駅のホームから突き落とされた朝に戻った。
死んでもやり直しがきくのか……。
でも、以前と違いその日にループした法則性があるのか、それとも無作為なのかわからない。
7年後にはホームドアが設置されて、誤って転落する事故も減ったが、この頃はまだホームドアが設置されていない。
走馬灯というものは見れなかった。
電車が近づいて一瞬激しい痛みを感じたと思ったらベッドで目が覚めた。
ちょっと雰囲気のおかしい本庄にもう一度絡まれ、水瀬さんと待ち合わせをする。
ここまではいい。
問題はここから……。
行動をいっさい変えることなく駅のホームで先頭に並ぶ。
ただ前回との違いは30メートル以上離れた場所に立っているという点。
ホームのアナウンスが流れた後、通過する電車が近づく音が聞こえてきた。
ドンっと、背中を押された。
ホームから落ちる瞬間、姿勢を保って線路に着地し、感電しないようにレールを跨いでホーム下の避難スペースに飛び込んだ。
大音量のブザー音が響く中、快速電車が避難孔にいる俺のすぐそばを通過していく。
それから数分後に駅員が下りてきて、ホームの端っこにある階段から上がった。
すでに救急車が呼ばれており、見た目が無事でも医療機関を受診することを勧められ、車いすで救急車が待機している場所まで運ばれた。
水瀬さんに今日はご飯を食べに行けなくなったとSNSで連絡を入れる。
一通り、病院で診察してもらって特になにもなかったので、その足で自宅アパートに帰宅した。
これで確実に明確な殺意のもと、俺をホームから突き落とした人物がいるとわかった。
帰る途中に寄ったコンビニで買った弁当を食べていると割りばしを持つ手が小刻みに震え出した。
俺を殺そうとした犯人がわかった。
冷静にならないとこっちがやられてしまう。
貯まっていたリベンジポイントを全部使う。
まず、身長。本庄と殴り合うならタッパはある程度伸ばしておいた方がいい。
30ポイント使って、身長を176センチまで伸ばした。
次に身体能力に25ポイントつぎ込む。1ポイントで2も伸ばせるので、ここまできたらマッチョになりすぎた自分を鏡で見て怖くなった。
ここまで身長や股下を伸ばすと身体能力や魅力にも補正がかかるらしく少し上がった。やっぱ男は身長も関係あるのか。厳しいよな、現実って……。
最後に魅力に5ポイント使う。これは単なる願望。プチ整形したくらいの面構えになったので、これくらいなら会社の人にバレる心配はないと思う。顔よりかは身長や筋肉の方がむしろ心配。
──────────────
名前:甲田蓮
年齢:23歳
身長:176センチ
股下:82センチ
魅力:72点
年収:288万円
資産:984万円
身体能力:140
メンタル:126
説得力:112
問題解決:138
リベンジ:0P
──────────────
「さて、次は……」
例の刑事に電話をした。
犯人の名前は伝えず、協力してくれたら犯人を捕まえることができると説明した。
営業3課のグループSNSに駅のホームから落ちて明日、詳細に病院で検査をするので1日休みますと嘘の報告をいれる。すぐに課長から電話がかかってきて事情を話した。
翌日、朝からいろいろと準備にとりかかった。
まず、スーツや服のサイズが合わないので午前中は服選びで店を回る。午後は週末の犯人との対決に向けて、ある場所の予約や保険のために普段、訪れない場所へ足を運び念入りに準備をした。
そして次の日。
「本庄、金曜日に久しぶりに飲みに行くか?」
「女の子が欲しいなぁ」
「いや、女の子もちゃんと誘うよ」
「じゃあ巨乳の子と咲良ちゃんで、キヒっ!」
「……わかった。誘ってみるけどいいと言うかはわからないぞ?」
「キヒヒっ!」
笑い方は怖い。
営業3課の人たちもなるべく本庄と関わらないようにしている。
ホントは嫌だがやるしかない。
水瀬さんに声をかけたら、俺が行くなら行くと言ってくれた。
咲良は……。
「約束をいっこ聞いてくれたら行ってあげてもいいけど」
意地悪そうな目。
まるで小さな悪戯を企む子供のように輝いているその目は見覚えがある。
いつだって俺を困らせつつも、結果的に喜ばせようと企んでいる時の目だ。
前日の木曜の夜に映画をふたりで観に行ってくれたら参加してあげると言ってきた。
まあこれもすべて計画のため、と言いたいところだが。
正直、最近、咲良のことが少し気になる。
今日、身長や見た目が変わった俺を見て、女性陣の俺を見る目が変わったが咲良だけは変わらず俺に接してくれる。
木曜の夕方。
隣町のファストフード店で軽く夕食を済ませる。
「今野さん、なんで俺と映画を見に行くの?」
「べ、別に深い理由なんてないけど? ただ……最近、思いつめた顔してたから心配なだけ」
咲良の言葉は、少し照れくさそうに聞こえる。彼女の声は柔らかく、周りの雑音が少しずつ遠のいていく。心配してくれるなんて、ただの同僚はここまで他人のことを気にかけないだろう。
「ねえ、甲田くん」
「ん?」
彼女は紙のコップに入ったジュースを飲み終え、コップをテーブルに置いた。氷がカラカラと音を立て、静かな時間が流れる。咲良の視線が俺を捉え、彼女の目が真剣さを帯びてきた。
「甲田くんが、なんか遠くに行っちゃいそうで怖いな」
女の人の勘なのか。
明日の決戦に敗れたら、本当にどこまでも遠くにいくことになるかもしれない。
ループなんて都合のいいものに頼る方がどうかしてる。
次はないかもしれないのだから……。
「だいじょうぶ」
心配じゃないと言えば嘘になる。
でも、俺ははっきりと目の前の女性に答えた。
「俺はどこにも行かない」
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