琢己の復讐

関口 ジュリエッタ

第1話 復讐

 日が暮れるとき小学六年生の荒井琢己あらいたくみは学校近くの公園の人気の無い場所で三人の同級生に酷いイジメを受けていた。

 相撲取りと見えるような体型でただ脂肪だけの塊ではなく小学生とは思えないほどの筋肉質の坊主頭岸田剛毅きしだごうきにひ弱な性格で低身長である琢己の顔面を変形するまで殴り続ける。


「おい、琢己。お前俺が恐喝したこと先生にチクろうとしただろ!」


 殴りながら琢己に言葉攻めをするが、殴られてるせいで上手く話せない。

 それから五分間にも及ぶリンチをようやく終えて琢己は解放された。

 

「いいか、今日中に十万用意しておけ、用意ができたら俺のスマホに連絡しろいいな!」

「……わか……た」


 激痛で地面にうずくまる琢己の顔面に三人のイジメっ子が唾を吐き去って行く。



 身体の痛みが少し引き、動く事ができるとポケットから取り出す。さっきのリンチで画面がひび割れてしまっているが壊れているわけではないので、自宅に一度連絡を入れる。

 通話の相手は姉だった。両親が不運の事故で失い歳の離れた姉一人の稼ぎで家庭の生計をしているため一般家庭よりもかなり貧しい生活を送っていた。

 姉は心配した声で家で待ってる、と言われ通話が切れた。たぶん姉は琢己が酷いイジメを受けているのだと分かっているのだと思う。

 今の琢己の状態を見せてしまったらきっと姉に心配させてしまうと思い。琢己はいつもとは違うルートで帰宅することにした。

 通学路とは少し結構離れた河川敷の土手を歩いていると、ふと気になる物を身にする。

 それは琢己の身長と同じくらいの白い物が道に落ちていたのだ。

 近づきその物体を見るとどうやら何かしらの生物の骨だとわかる。

 こんなの所にこんなデカい骨があるのは不自然だと思いながらその大きな骨を琢己は手に取ると脳内に何者かの声が響き渡る。


(お前の恨みを晴らしてやる)


 全身に恨みと憎しみの増富が膨れ上がり、自分をいじめていた三人に殺意の念が沸き立つ。


「あいつらを全員殺してやる」


 今まで人には見せたことのない不敵な笑みを浮かべて琢己は自宅へと帰らず、三人の殺害しに向かうのであった。




 陽の傾く時間、琢己は自分をイジメていた人物の一人、城島隼人きじまはやとの帰るルートを歩いていた。

 隼人はスポーツ万能で力では剛毅に劣るものの琢己のことを酷い暴力を受けていた。学校の教師達もスポーツ界で有名な中学に入学することになっており琢己をイジメていることを知っていても見て見ぬ振りをされているのだ。

 そんな人物が目の前にいるのを発見した琢己は背後から気づかれないようにゆっくり近づくと両手で隼人の目をえぐり出した。


「うぎゃああああ!! 目がぁぁぁぁぁ!!」


 甲高い悲鳴と共に隼人は地面に崩れ落ちそうになったのを琢己は血の付いた手で隼人の頭を鷲掴みにし、こちらへと引っ張る。


「よう、隼人。両目が無くなったからお前の得意なサッカーができなくなったな」

「その、声は――」


 隼人の言葉が終わる前に琢己は思いっきり道路の方へと投げ飛ばす。

 人間離れをした力で吹き飛ばされた隼人はそのまま地面に激突して身体中に伝わる衝撃と激痛に悶えていると――突然トラックのクラクションが鳴り響き、トマトの潰れたような音が辺りに響き渡る。

 幸いにも隼人の通る場所はいつも人気の無い場所なので琢己の行為は誰にも見られていなかった。


「まずは一人目」


 そう一言呟き、次のターゲットに向かう。




 都内で一番の住宅街に着いた琢己は目の前の豪華な家に着く。

 住宅街の中でひときわ目立つ立派な三階建ての家、ここの住んでいるのは琢己をイジメていた村木輝義むらきてるよし、かなり裕福なお金持ちだ。

 容姿は出っ歯でネズミのような顔でいつも剛毅の側にいる金魚の糞みたいな人物。

 輝義の自宅に侵入し、琢己はどこから手に入れたのか不明な大きな灰色の筒を家の四つ角に置くと、そのまま全速力で輝義の家から離れる。

 ある一定の距離まで離れると琢己はポッケトスマホを取りだし画面をタップすると同時にもの凄い爆発音が辺り一面に響き渡る。

 輝義の自宅が爆発し大炎上をしてしまう。

 自宅の三階から炎に身を包まれた人物数名がガラスから飛び出してもがき苦しんでいた。

 その中で輝義らしき人物を発見すると琢己は満面の笑みを浮かべる。


「これで二人は殺した。次は剛毅だけだ。待っていろよ剛毅、貴様を地獄に送ってやる」


 独り言のように呟いて琢己はその場から去って行く。




 陽が完全に暮れ、真夜中の時間帯。とある工場に琢己は自分をいじめた張本人である岸田剛毅を呼んだ。

 言われたお金を持ってきたから、と剛毅をこの工場に誘き出し、殺す計画でいた。

 そうとも知らず剛毅は琢己の目の前に現れた。


「こんな夜遅くに俺を呼び出すなんて覚悟できているんだろうな!」


 ズカズカと歩き出し琢己の胸ぐらを掴む。


「落ち着いてよ剛毅君。これ言われていたお金だよ」


 琢己はポケットから分厚い茶封筒を取り出す。

 それを目にした剛毅は茶封筒を奪い取り、琢己を投げ飛ばす。


 中身を開けるそこに入っていたのは大量の一万円札の束が百枚入っていたのだ。

 その光景を見た剛毅が満面の笑みで喜んでいる。

 その隙に琢己は背後に隠していた謎の液体が入ったスプレー構えて剛毅の顔面に吹き付けた。


「何をするんだよテメェ……」

「いや、デカい害虫がいたから駆除をしようと思ってね」

「……貴様!」


 眉間に大量の青筋を浮き出して剛毅は今まで見せたことのない怒りの表情を琢己にぶつける。が、剛毅は琢己に攻撃をすることができなかった。

 身体が動かない指先が動かないことに剛毅は焦る。

 

「ぐうぬぬぬぅぅぅぅ」


 身体中がマヒをしているため口も動かすことができなかった。

 剛毅の髪を鷲掴みそのまま強引に工場の中まで琢己は引きずる。

 ひ弱で非力の人物が自分を軽々と引きずるとは思いもよらなかった剛毅は必死で琢己に話しかける。


「うーうーうるさいよ、害虫が。今から君にはサプライズプレゼント用意しているから大人しくしててよ」


 琢己は剛毅を引きずり歩いて行くとやがて目的地へとたどり着く。


「着いたよ」

「うぅぅぅ!」


 そこは轟々に熱されている一千℃を超える大鎌の上だった。


「君をこの溶鉱炉の中にダイブさせてあげる。これは僕からのサプライズプレゼント!」


 琢己は両手を天井高く広げて不適な笑みを剛毅に向ける。


 涙を流し、下から尿を垂れ流して必死に琢己に命乞いをするが彼は聞く耳を持たずそのまま剛毅を溶鉱炉の中へと投げ飛ばした。

 一瞬の悲鳴を上げた剛毅はそのまま炎の中へと沈み死んだ。


「これで復讐は果たしたぞ」


 喜んでいる琢己の背後から人気を感じ振り向くとそこにいたのはこの場にふさわしくない寺の住職らしき格好をした年配の人物が琢己の前に現れた。


「時既に遅し、こんな小さな子供に憑依をするとは……」

「誰、おじさん?」

「私はこの近辺に住んでいる僧侶だ、君を殺しに来た」

「なにを言っているの?」


 身体全身から恐怖で鳥肌が立つ。これはヤバい人物だと思った琢己は急いでこの場から離れないと行けないと悟った。


「逃がしはせん。このまま君がその釜の中へ入れば君に憑依をした怪物は消えて亡くなる」

「怪物? 何のこと?」

「大きな骨を拾っただろ」


 河川敷の土手に落ちてあった大きな骨を琢己は思い出す。

 あの骨を取ろうとしたとき、琢己の身体に勢いよく入りこんで来たのだ。

 

「もしかして……あの骨」

「あれは大妖怪の身体の一部なのだ。私が退治したときその妖怪の一部がはじけ飛んでしまってな。それが君の身体に憑依をしてしまったのだ」

「そんな……」


 ゆっくり近づく僧侶に琢己は急いでここから逃げようとしたとき襟首を掴まれ逃走を阻止された。


「手遅れだ、君は怪物の力で人を殺してしまった。手遅れだ、悪く思わんでくれよ坊主」


 そのまま琢己は溶鉱炉中へと投げ飛ばされた。



 手を合わせて合掌終えた僧侶はそのままどこかへと消え去っていく。

 自分をいじめた剛毅達の復讐を遂げることができた。しかし結局、琢己自身も知らなかったとはいへ、妖怪の力を借りてしまったがゆえに自分も殺害されてしまうのであった。

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