魔王の愛妻 ~義母は竜で、夫は魔王、花嫁修業は魔王の倒し方で、義父は私が倒しました~
木全伸治
第1話魔王の新妻
昼間は魔王の王妃のお披露目としての慣例的な式典やパレードを魔王城城下で行い、魔界中に魔王が妃をめとったことを喧伝した。人間界でいうところの結婚式や披露宴などだ。
魔界での魔王の権威を知らしめる目的もあって、その式典は盛大で豪華だった。魔界中の多種多様な有力な魔族たちが来賓として現れ、正直、疲れた。大人しく魔王の王妃として振る舞うのは本当に辛くきつかったのだ。
魔王の嫁である前に、私は人間の勇者であり、元々は人間界の大国の一つである帝国の皇女として生まれ、女帝として帝国を統治する母が、容姿が平凡だった皇女である私を打倒魔王の勇者として育て上げた。絶対に美人に成長するという顔立ちだったら、そんな育てられ方はされなかっただろうが、結局、魔王に挑んでも彼を倒せず、逆に人間界と魔界の平和の礎となるために彼の元に嫁ぐことになった。
敵国同士、講和のために互いの王族が婚姻を結ぶというのは歴史的にもありふれた外交手段であることは分かっているが、平和のためとはいえ敵の元に嫁ぐというのはそう簡単に割り切れるものではない。
最後の宴が終わって、我が夫となった魔王は、その夜、そのまま眠りにつきたそうだったが、魔王の妻となった私が、このまま終わらせるかと昼間のストレスを発散させるように夫である魔王をそのまま寝かせようとはしなかった。魔王城の中庭に連れ出し、甘い初夜のはずなのに私たちは互いに剣を構えていた。
「おいおい、新婚初夜に夫婦が互いに剣を構えるなんて、聞いたこともないぞ? それとも、人間界では、新婚初夜に夫婦が真剣でやりあうのが慣例なのか?」
頭に角があるが、割と美男子の魔王が呆れたように肩をすくめて苦笑している。だが、青を基調とした勇者しか着れないという鎧に身を包み、神の贈り物とされる聖剣を握り、私は聖剣の切っ先を向けて吠えた。
「うるさい、黙れ! この私と大人しく初夜を迎えられると思うな、魔王! この私をモノにしたければ、力づくで来い!」
魔王は呆れていたが、私は本気だ。
魔王も私にわだかまりがあるのは理解できるらしく付き合って魔剣を手にしている。魔王を倒す勇者として実の母である女帝の命により幼少より鍛えられた筋金入りの勇者である私と本気の死闘を演じたのは、ほんの数か月前のことだ。
数か月前、少数の仲間とともに私は勇者として魔界に乗り込みこの魔王城まで攻め込んでいた。今は夫となった目の前の魔王を本気で殺そうとしていた。だが、それが返り討ちに遭い、無様に人間界に逃げ帰ってきた私たちを見て母である女帝は打倒魔王という方針をあっさり変えてしまい、自分の娘である私と魔王との婚姻を魔界に打診した。つまり、負けを認めて娘を差し出すから、魔界に喧嘩を売ったことを不問にして、手打ちにしたいという政治的取引だった。
魔王を殺せと言われたり、魔王と結婚しろと言われたり、私としては大迷惑だったが、厳格な専制君主である母には厳しく反論したところで聞いてもらえないと分かっていたから、昼間は我慢して大人しくしていた。だが私は、初夜を目前にして、黙って床を共にできる性分ではなかった。
せめて、もう一度戦って、彼の強さを確認して、完敗したから身を委ねるという納得できるものが欲しかったのだ。
そんな私の心情を彼も十分に察しているようで、妻の憂さ晴らしに付き合うように私の前に立っていた。ただ、少々呆れるような顔はしている。
「おいおい、前にあれだけ見事に俺の前から逃げ出したのに、また恥をかくつもりか」
魔王城に仲間とともに初めて乗り込んできたときは、本当に言い訳できないほど完敗だった。
追撃されて、やられる覚悟もしていたが、敗走する私たちを魔王は見逃した。見逃せば、婚姻を言い出してくると予想していたわけではない。ただ面倒だったから、追ってこなかっただけだ。
そして、いま再戦しても、私が勝てる保証がないのも分かっている。
だが、二度も負ければ、踏ん切りがつく。
そうして、私たちは剣を激突させ始めた。
本気で振り下ろした私の聖剣を、前と同じように魔王は魔剣で楽々と受け止めていた。
キンキンと刃のこすれる音が中庭に響く。
彼も、幼い頃より、魔王を継ぐため徹底に鍛えられていた。その証として、魔剣や魔王の鎧を継いでまとい、勇者の攻撃を余裕で受け流す。
すべて、本気の鋭い斬撃だった。私は本気で結婚したばかりの夫を殺す気で聖剣を振り回していた。
魔剣でなければ、その神から授けられたという聖剣の威力で魔王は、あっさり真っ二つに両断されていたはずだ。
魔王に代々受け継がれる魔剣は、持ち主の魔力をドカ食いするが、その分強靭で鋭利で、魔法攻撃さえ斬る。故に、前に戦ったときも、勇者の仲間の魔法使いの攻撃魔法をぶった斬り、私たちを魔王城から叩き出した。勇者も攻撃魔法が使えたが、その魔剣の前では、どんな攻撃魔法も無意味だった。魔王の鎧も魔力をドカ食いするが、龍の鱗のように強靭で、魔剣で斬りそこなった魔法が身体に当たっても、彼の身体に傷をつけることはできなかった。
何でも斬れる魔剣に、攻撃の通じない鎧。魔王が代々受け継いでいる魔界の至宝である。それに一度戦って、もう私の太刀筋は見切っているようだ。
キンキン、カン。
魔剣と聖剣のぶつかり合う斬撃の音に気づいた魔界の有力な魔族の何人かが、こっそりと私たちの剣舞を見ているのに気づいてはいた。
面白い見世物と思って、誰も止める様子はない。
魔界の有力者である彼らにしても、夫婦としての上下関係を明確に知る良い機会だと思って傍観しているようだ。
だが、見世物になって喜ぶ趣味は魔王にはなく、魔剣に魔力を送り込み、一気に勝負に出ることにした。
「ッ!」
強引な力技だった。ありったけの魔力を注がれた魔剣は、それを斬撃に乗せて、聖剣ごと私を吹っ飛ばし、魔王城の端の城壁までぶっ飛ばした。
勇者の鎧を着ていなければ、全身複雑骨折で即死だったろう。
吹っ飛ばされ城壁に激突して、そのまま、地面に倒れ気絶した。
魔王が倒れた私に近付き、息を確認する。気絶しただけだと分かると私を抱き抱えて、寝室に向かう。ようやく眠れる。お姫様抱っこをしながら、ベットが恋しい魔王は欠伸をしていた。
翌朝、目を覚ました私は自分が鎧を着たまま、ベットに横たわっているのに気付いた。
しかも、隣には、同じく鎧姿の魔王がゴロンと寝ている。
で、自分たちの恰好を見てハッと気づいた。魔王が気絶している私に何もせず、そのまま眠ったのだと。
ムカッときて、寝ている魔王の頭を思わず小突いて起こした。
「あ、うん?」
小突かれて目を覚ました魔王は、なんで小突かれたのか分からず、軽く伸びをして、寝ぼけ顔でベットから起き上がった。
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