ティアマトの少年たち
酒部朔日
ティアマトの少年たち
陸に上がった少年たちは
海の名残りをかなぐり捨てて
足の裏を真っ赤にして
尾びれを落として駆ける
機械仕掛けの天使が空を埋めている
平野の人間を狙って爆撃をしている
戦闘機に乗り込んで
塹壕に詰め込まれて
群れの本能のまま隊列を組んで
少年たちは戦場に行く
母なる海の名を叫べ
ティアマトの輝きを纏え
戦場は眩しくて
六枚羽根の天使が影を作る
指揮車が吹き飛ばされて
盲目となった軍隊は
もろもろと崩れていって
少年たちは黒い土に沈んだ
天空は機械仕掛けの天使が支配して
平野に影は落ちたままだった
時が経ち
細く白い花がそよいで
そこから少女たちが垂れるように
生まれ落ちた
一人一人と黒い土の畑に着地する
少女たちは傾いたテレビ塔に登り
六枚羽根の天使の羽に飛びつき
一本ずつ毟っては墜落していく
畑に日が射すまで続いた
少年たちが死んで出来た黒い土
少女たちが産まれ出でた黒い畑
土中は暖まり膨れていった
たくさんのじゃがいもが生った
平野の人間たちはそれを食べ
人口を増やした
いつしか優れた技術者が何人も産まれた
天使を穿つ槍を作ってそれを放った
ひとりの妊婦が大きなお腹で平野を旅する
二ヶ月後には男の子が産まれる
草原に埋もれた天使の破片に腰掛けて
青空を疑っていない微塵も
ティアマトの少年たち 酒部朔日 @elektra999
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