成実

お姉ちゃんは私にとって太陽だった

中学校の時のお姉ちゃんは、運動が得意で頭もいい、優等生だった

私に勉強を教えてくれた

とても分かりやすくて、優しかった

高校の時のお姉ちゃんは皆に好かれるギャルだった

毎日のように遊びに行っていたし、可愛い友達もよく家に来ていた

女子高だったから彼氏こそ連れてはこなかったけど

皆、私の相手をしてくれて優しかった

そして大学生になって、お姉ちゃんは地獄に落ちた

何があったのかは知らない

お父さんもお母さんも教えてくれなかった

だけど何かがあって家に籠るようになった

見るからに痩せていったし元気も無くなった

そのうち、顔も姿も見せなくなった

それでも私には太陽だった


中学校に入ってからすぐに秋徒って先輩と出会った

人としてはダメダメで常識外れ

だけど、こと芸術に関しては他の誰よりも凄い人だった

五月のある日だった

秋徒先輩が

「化粧道具欲しいな」

と呟いたのが全ての始まりだった

独り言だったのかもしれない

だけど私はなんとなくで聞き返した

「何に使うんですか、そんなの?」

そしたら秋徒先輩は、よくぞ聞いてくれましたって感じで私を見る

「それはもちろん、女心を理解するため」

「は?」

「今書いてる作品があるんだけど、何かが足りないんだよね」

そう言って私に絵を見せてくる

とても可愛らしい女性だった

私と同い年だろうか

花のような笑顔が印象的だった

そして、私には十分素晴らしい作品だと感じさせられる

だけど先輩が言うのだから何かが足りないのだろう

それこそ私には理解できないようなことだ

これ以上聞くと恥をかく(と言うか馬鹿にされる)気がしたから単刀直入に言った

「私の家にありますよ?

持ってきましょうか?」

「本当かい⁉」

「ただし条件が一つ

自分で取りに来てください」

自分でも何を言っているのか分からなかった

家にはお姉ちゃんがいるのに

それに先輩も面倒だろうし…

「よし今すぐ行こう」

「マジですか」

全然そんなことなかったらしい


私のこれは人生の中でもトップのナイスプレーだった

そして、最悪でもあった

あれからお姉ちゃんは恋をして、秋徒先輩を追って死んだ

今でも思う

私が秋徒先輩を連れてこなかったら、と

お姉ちゃんはずっと家に籠ったままで

何年、何十年と経って、お父さんもお母さんも死んで

私が今度は養うようになって

それでも、生きていた

もしかすると自分で立ち直って人生をやり直していたかも

それでもやっぱり、生きていた

私は…お姉ちゃんを殺したんだ


そして月日は流れて、私は高校生になった

それはまるで呪いのようだった

高校生の頃のお姉ちゃんのようなギャルっぽい恰好をした

でも生粋の真面目は抜けなかったらしい

結局、中途半端な存在になってしまった


私の第二の転機は二年生になったばかりの始業式の日

校長先生の話つまんなかったねーとか、そんな他愛もない話をしていた時だ

「えー!ベルばら知らないの⁉」

それはとても大きく、高い声だった

おかげで私は気づくことができた

私は話していた友達との会話を終わらせて、その女の子の元に向かう

そして、その子の後ろから話しかける

「ベルばらの話してんのー?」

「そうだよ!男子が漫画見るって言うから好きなマンガ言ったのに~!」

「んまー古いマンガだし?」

「でも!あなたは知ってるんだよね!」

そう言って私の方に振り向く

私は、話しかけたことを後悔した

「あっ…」

「私は茜!あなたは?」

それは何度も見た…目だった

まるで自分が幸福だと思い込むような目

いつも、ここを見ていない目

死ぬ前のお姉ちゃんの、目

あの後、私は何を話したのか覚えていない

だけど自然に話せていたと思う

お姉ちゃんの時みたいに


どうやら茜は昭良に恋しているんじゃなくて昭良に恋をして欲しいそうだ

変な願いだなー

最初は昭良に脅されているのかと思ったけど、関わっていく内に昭良はそんな悪い人じゃないと知った

顔は悪人そのものだけど

それどころか、昭良は茜のことが好きだって

何が何だか分からない

茜と昭良が結ばれて終わりではダメなのかな

モブともそんな話になった

でも、ダメらしい

願いはかなえてあげたいけど、多分無理なんだよなー


そんなことを毎日のように考えている

今度こそ、救うために



文化祭の件、結論から言うと、多分駄目

私が美術展が具体的に何をするのかを言った

クラスの皆のリアクションは悪くなかった

だけど

「それは…ちょっとやめない?」

と言う茜の一言で、なかったものみたいになった

やっぱり皆、を気にしているみたい


授業が終わった後の昼休み

私は屋上にいた

いつも考え事をする時は、ここに来る

一人になれるし、風が気持ちいい

だけど今日は違った

屋上の扉が開く音がする

振り向くとそこには見知った顔があった

「…モブじゃん

どしたの?」

「中学校の時から変わらないですね

一人で抱え込もうとする癖も屋上に向かう癖も

…茜さんのことでしょう?」

「やっぱりバレてるかー」

モブは小学校から私のことを知っている

親も適度に仲が良かった

だけど、お姉さんが死んでから疎遠になっていた

モブは私のことを避けるようになったし、私はそれどころじゃなかった

最近になってようやく話すようになった

「モブ、こっちに来て」

「?まぁはい」

昔は私よりも小さかったのに、見ないうちに大きくなって

ま、もう三年も経ったからね

私の目の前までモブが来る

それをギューッと抱きしめる

「ちょっ⁉」

「昔も何かあったら、こうしてたよね」

「小学校とかの話ですよね⁉」

「そう、昔の話

…もう戻れないんだよね」

「成実さん…」

暴れていたモブが大人しくなる

そのまま言葉を続ける

「でも私、今が好きだよ

だから茜のことは救いたい

モブ、協力してくれる?」

もしも拒絶されたらどうしよう

そんな思いはすぐに消え去った

「もちろんですよ

僕だって、もう後悔したくない」

二人の覚悟は決まった

私は、より強く抱きしめる

「…ねぇ、何か硬いの当たってんだけど」

「僕も男なんです…」

「シリアス返してよ」

「ごめんなさい…」

そんなことを言いながらも、離しはしなかった


「と言う訳で!私達も協力するよ~ね!モブ」

「は、はい…」

「どうした摸部?顔赤いぞ?」

「尊厳破壊されました…」

「何があったのかは知らねぇけど、お疲れさん」



確かに文化祭の件、今回は上手くはいかなかった

だけど成実と摸部と協力者も増えた

有愛、おっさんも含めて五人

これだけでも収穫があった

それに文化祭までは期間がある

まだ諦める時じゃねぇ

スマホを確認する

おっさんから『今日もいつもの喫茶店で』と連絡が来てる

もう学校も終わりだ

早く向かおう

その前に新しく仲間が増えることも伝えて

「アキラ」

それは突然だった

「一緒に帰ろう!」

「…茜」

俺に重大な選択を迫られる時が、来た


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――作者から

あと四話でエンディングに入ります

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る