蛇足編 アナタ

そこにいたのは…とても可愛らしい女の子

あかねって言います!」


いつもと変わらないスケッチになるはずだった

会話なんて一度もなくて

鉛筆が走る音だけの世界になる

そのはずなのに…

「あっくん、ここの表現って…」

「僕はこうしてる」

「さっすが!」

「うるせー」

今日はいつもよりも騒がしかった

…私が話しかけても反応すらしないのに

茜さんが一言呼ぶだけで反応する

いやまあ!私よりも付き合い長そうだし

「そう言えば秋徒あきと君と茜さんの関係って?

親御さんとも仲良さそうだったけど」

「私達、幼馴染なんです

家が隣同士で

幼稚園からずっと一緒だったんですよ」

「今日、機材を運んでくれたのも茜の両親なんです」

「へー

それじゃあ、家族みたいな感じなんだ」

そう言うと茜さんは満面の笑みを浮かべる

「そうなんです!」

可愛い妹みたいで羨ましい

後ろから成実なるみの生霊みたいなのが見てる気がする…

私には成実で十分だから!早くお帰り!

「ほら、茜も変なこと言うなよ

咲花さくらさんも変なこと聞かないで下さいよ」

「ゴメンゴメンッ」

「それに…僕は家族として見てないから」

「…ん?」

ボソッとしか聞こえなかったけど、そんなことを言っていたような気がする

そう思って秋徒君の顔を見る

…何その表情

秋徒君はリンゴのように顔を赤くしていた

私には…一度も見せたことのない、照れがあった


あれは…一体何だったんだろう

秋徒君は私のことが好きなはずで

茜さんとは何もないはずで

今は休憩時間

一人で考え事をするために屋上に一人でいた

二人にはトイレと言ってある

「…何だろう」

そう呟いた時だった

ガチャリと屋上の扉が開く

誰か来た?

…どうしよう

ここ立ち入り禁止とかだったら

そう思って一応隠れることにした

「ここがあっくんの学校かー」

「そう言えば茜は来たことないっけ」

「そうだよー」

誰かと思ったら二人だ

なにをしに来…

「あっくん、指輪は付けてないの…?」

…は?指輪?

いやいや聞き間違いでしょ

まるで婚約を誓ったみたいな…

「スケッチで汚れたら嫌なんだよ」

「まぁ私もスケッチの時は外してるけど

…ねぇ。ちゅーしていい?」

「…え⁉」

「いいじゃん!今日してないし…」

その時、リップ音が響く

「茜、ビックリするほど赤くなるんだもん」

「う、うるさい!」

「早く戻ろう

咲花さん、待たせてるだろうし」

「はーい」

私は…ただ呆然と立ち尽くしていた


あの後のことは夢のようで

現実だと思いたくなくて

だから私は

…え?なぜあんなことをしたかって?

…どっちのこと?

自殺の方?…違う?

じゃあ、あの日のことだね

私だって…正気じゃなかった

あれは、八月の中旬

私は成実の友達と、その家族でキャンプに来てたの…


自然に囲まれていて、とても町の近くだとは思えないところだった

私は爽花そうかちゃんと森で薪を集めていたの

「爽花ちゃん、崖が近いから気を付けてね」

「はーい」

私は崖から見える景色を見る

…下は道路になってるんだ

落ちても少しのけがで済みそうだけど車が通ったら怖いね

幸いにも車通りは少なそう

その奥も崖になっているようだった

…その時だった

向こうから来る一台の車に気づく

銀のワゴン車だ

…そう言えば茜さんの両親の車も銀のワゴン車だった

その時、悪魔が囁く

「…ねえ、爽花ちゃん

こっちに来て」

「?なんですか」

「いいから!これ見てよ」

「え、なにな…に…」

私は爽花ちゃんの足をかける

そのままの勢いで爽花ちゃんは道路に落ちる

それと同時に思いっきりハンドルを切ったのだろう

車はガードレールを壊して崖に落ちていく

…ここまで上手くいくなんて

どうせ失敗すると思ってた

爽花ちゃんが落ちなければ、それでよかった

急ブレーキで止まってくれれば、それでよかった

止まらなくても爽花ちゃんが轢かれても、それでよかった

だけど上手くいった

…神様は言ってるんだ

秋徒君は私と結ばれるべきなんだって

「あ、あの!お姉さん

けい、警察!いや救急車!」

私は崖から降りて車を見下ろす

…燃え盛っている

中にいる人は助からないだろう

「…爽花ちゃん

皆には黙っておこう」

「で、でも…ひ、人が!」

「あれじゃ、もう助からないよ

それにね?爽花ちゃん

正直な人は誰も得しないんだよ」

「…え?」

「私だってそうだった

馬鹿正直にサークルの飲み会なんてついて行って

馬鹿正直にお酒飲んで!

馬鹿正直に体を汚されて‼

…でも、爽花ちゃんは私と違うところがある」

「な、なんです?」

「そのサークルの男達どうなったと思う?

…皆、泥酔していたんだろうね

誰一人として目覚めることはなく…死んだよ

火が、そのホテルに付いて…ね

アルコールが近かったからよく燃えたんだろうね」

「ひっ!」

「なんで怖がるの?

今、あなただって殺したじゃない

何の罪もない人を!何もしていない人たちを!」

「ち、ちがっ…違う!」

「違わない‼

…他の人にも、こうやって責められたい?

人殺し!人殺し!…って」

「ご、ごめんなさい

…して」

「何?」

「許して…」

そう、びくびくと震える彼女を優しく抱きしめる

「大丈夫…私は味方だから

だから…二人の秘密、ね?」

「は、はい…」

抱きしめながら私は…笑っていた

これで…秋徒君は私のものだ

好きな人が死んで悲しむ秋徒君を慰めれば…

だけどその夢は叶わない

次に私が秋徒君に会えたのは秋徒君の葬式だった


その日は、ざあざあと雨が降る日だった

秋徒君が死んだ

事故と言うことだ

人通りの少ない崖から落ちて…

運転していた夫婦は、おそらく即死

秋徒君は失血死

助かったかもと

そして、その子供は生き残っているらしい

…秋徒君は死んで茜さんが、生きてる?

「いや…いや!」

私はそのまま葬儀から逃げ出す

嘘だ嘘だ!なんで秋徒君が!

そもそも…あのワゴン車が本当に茜さんの両親のものだなんて!

そこに秋徒君が乗っていたなんて!

「…ふふ、アハハハハ!」

そうだそうだ!

私は茜さん…いや、茜を不幸にするためにやったんだ!

あーあ!そうだったそうだった!

私は雨のせいか妙に歪む世界を走った


近くの廃ビルの屋上に私はいつの間にか立っていた

「三年後のアナタ秋徒君は高校二年生ですね

どのように生きているでしょうか

少しでも私が残したものがあれば嬉しく思います」

そうして一歩踏み出す

足は思ったよりも軽やかで、躊躇うことを知らなかった

落ちる瞬間に思う

さっき、私は何を言ったんだろう

秋徒君は私が殺し―ぐちゃ

…私は、狂ってたんだ

恋に狂っていた


これは咲花の恋語り

そして…なければよかった、蛇足な物語人生


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――作者から

以上で彼女の蛇足な人生は終わりになります

人の生に蛇足…なんて酷いとは思いますけどね

彼女はどこで間違えたのでしょうね…

その答えは…いつか明かされるのでしょうか

それは誰にも、私にも分かりません


暗い話はここまでにしましょう!

次回から最終章『文化祭編』に入ります

どうぞお楽しみに!

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