【カクヨムコン参加】織姫と魔女

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お題 骨

 工場で火災があった。

 多くの女工が猛火に焼かれた。そのため完全に白骨化してしまったという。彼女たちの親は誰が自分の娘なのかわからぬまま別れを告げることとなった。無論あの人とは赤の他人である私は、その骨にすら立ち会うことは出来ぬ。

 あの人と出会ったのは、師範学校に出たばかりの私が慈善活動の一環として工場に呼ばれたのがきっかけだった。あの人と会ったのはたった二度のことである。ほとんどの女工が私より年下であったが、あの人は私より年上だった。一度嫁いだものの、離婚を言い渡され、実家に帰ることも出来ずここへ来たという。食事が与えられるここはいいところだと語った。

 女工たちが逃げ出さぬよう、寄宿舎の扉は施錠され、窓には鉄格子が填め込まれていた。多くの工場がしていたことであり、働く女工たちを監禁することに誰も疑問を抱くことすらなかった。そのためほとんどの女工は火に気づいても外へ出ることがままならなかった。

 火の中は地獄そのものであっただろう。しかし地獄だったのはどちらであったのだろうか。そう何度も考えては、己が何もしなかったことを恥じる。

 私はかろうじて便所の窓から逃げることが出来た女工から話を聞くことが出来た。それによると、あの人も逃げようと思ったが、途中で引き返したという。

 引き返した女工たちは、この日々の支えとなった物たちとの別れを惜しんだと、新聞には書いてあった。だがあの人は、聖書が燃えてはならぬと、私が渡した聖書を取りに戻ってしまったのだ。


 二百年前の欧州では魔女狩りが横行し、多くの女が火炙りにされたと云う。これは基督教において肉体を燃やすと復活し天国に行くことが出来ないためだ。

 ならばあの人も、天国へ行くことは出来ぬのだろうか。


 私は焼け落ちた工場跡を彷徨い、探し続ける。

 ばあやが悲鳴をあげる。周囲は「気狂いの女」と噂し始めていた。

 構わない。魔女と呼ばれても構わない。

 私は今日もあの人の骨を探す。

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