第八皇女の日常ライフ
邪牙
第1章 リーフレット王国 前半
プロローグ
私の名前は、
毎朝決まった時間に家を出て、いつもの電車に乗り、学園に向かう。それが私の日常だった。退屈といえば退屈だけど、特別不満があるわけじゃない。成績は平均的だし、友達も何人かいる。でも、なぜか心の奥にぽっかりと空いた穴のような感覚が消えない――そんな日々だった。
「今日は早く帰らないと……」
スマホをちらりと見て、午後の予定を確認する。両親は仕事で忙しく、家には誰もいない。私が晩ごはんを用意する日だ。冷蔵庫にあった食材で何か作らないといけないな、なんて考えているうちに、駅のホームに着いた。
朝のラッシュほどではないけど、人は多い。スーツ姿の会社員、制服を着た学生、買い物袋を提げた主婦らしき女性。そんな人混みの中で、私はいつもの位置――ホームの端から少し離れた場所――に立っていた。
電車が来る時間までは、まだ少しある。私はふと、目の前の線路を眺めた。金属のレールが朝日を反射して鈍く光っている。その向こうにあるトンネルから、もうすぐ電車が姿を現すのだろう。
そんな時だった。
「……危ないっ!」
背中に突然、強い衝撃が走った。
「えっ!?」
私は驚きと同時に、体を大きく前に押し出された。気づいた時には、足元の感覚がなくなっていた。目の前に広がるのは、線路とその向こうの暗いトンネル。頭の中が真っ白になる。
周囲の叫び声が耳に響く中、私の体は地面へと吸い込まれるように落ちていった――。
どうしよう、もう、助からない――。
時間が止まったように感じた。そして、その瞬間。
「旦那様! 王妃様が無事、女の子をお産みになられました!」
……え?
耳に届いた声は、やけにクリアで、しかしどこか現実感がなかった。まるで映画のワンシーンを見ているような感覚だ。
「おお、エリゼ! よくやったな!」
「ありがとうございます……。この子……可愛いわ……。」
誰かがそう言っている。知らない人たちの声。でも、私は確かにその声に包まれている。目を開けようとしたけど、まぶたが重くて動かない。ただ、全身を優しい温かさが覆っているのがわかった。
「第八皇女ですね! 王妃様、これで12人目です。」
「そうか……。第八皇女か。」
(第八皇女……? 何の話? そもそも、私は……死んだはずじゃ……?)
私の体はどうやら赤ん坊らしい。動こうとしても思うように動けないし、手足は小さく、体はふわふわした布に包まれている。さっきの事故の記憶は鮮明だ。私は線路に落ちて、確かに電車に――。
それなのに、今はどうしてこんな場所にいるのだろう?
「名前はどうなさいますか、王妃様?」
名前。そうだ、私には名前が――「羽山美里愛」という名前があったはずだ。けれど、次の瞬間、私の人生は完全に新しいものとして始まった。
「ミリア。ミリア・リフレットと名付けましょう。」
(ミリア……リフレット……? それが、私の新しい名前?)
私の運命は、今確かに動き始めた。私は、異世界の王国の第八皇女として生まれ変わったのだ――。
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