第11話 新しいクラス
「ジン、今年は同じクラスやな」
仁が教室に入ると、同じ部活のえみりが親し気に声をかけてくる。紺のブレザーに包まれた小さな胸は、この半年ほどでわずかに育ったようだ。
「うん、よろしくね」
今までの仁ならば、無表情でうなずくだけだっただろう。だが祖父のような皆に慕われる医師になるために。仁は真帆と同じく変わろうと決意していた。
何度も鏡の前で練習したように目を細め、口角を吊り上げて笑顔を作りえみりの笑顔に答えるかのように自分もまた笑顔を作った。
「せ、せやな。よろしゅう」
えみりはわずかに頬を染め、上ずった声でそれだけを返した。
見たこともないえみりの反応に仁は。
(やらかしたのかな…… 笑顔がまずかったのか? そもそも笑顔なんて作るべきじゃなかったのか? やっぱりキモイ人間は何やってもキモいのか? 弱者男子が何をやってもだめなのか。えみりは童貞がいいなんて言ってたけど、やっぱり噓だったのか? 内心では見下してたのかもしれない。女が上の口で言うことを決して信用してはならないって聞いたことがあるし)
脳内で一人反省会を繰り広げていた。
「どないしたん?」
「い、いや、ごめん。キモかったよね」
下から顔を覗き込んできたえみりに対し、仁は頭を下げる。
「そないなことあらへんわ。ただ、ジンの笑顔なんて滅多に見いひんから、驚いただけやわ」
他に知り合いと呼べるべき人間もいないので、えみりと仁はごく自然に隣の席に座った。
「ジン、変わりはった?」
「何が?」
「半年前、おじいさんが亡くなったやろ。髪も切っとるし、制服も……」
祖父の訃報を受け取った時にぼさぼさで朝起きても櫛さえ入れなかった髪は、格安だが床屋に月一で通うようになってそこそこ見られるようになっている。
紺のブレザーの制服も前ボタンを丁寧に止め、肩のラインを意識するようにした。
「おじいちゃんの告別式行って、色々あってね……」
「せやか」
そっけない一言だが、声音は温かい。
えみりはそれ以上何も聞かず、鞄の中身から文庫本を取り出して読み始める。さりげない気遣いができるえみりを仁は有難かったし、尊敬もしていた。
もし将来、彼女と一緒に仕事をすることになってもきっとうまくやれるだろう。
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